収監者との文通 Mさんとの往復書簡 H26/12/8

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<M⇒鈴木>
前略
お便り、ありがとうございます。
共にお祝いの言葉を掛けて下さった方にもぜひ宜しくお伝え下さい。本当に嬉しく思います。なお一層、気を引き締めて、このまま継続できるように努力しようと思いました。
両親も喜んでくれていますが、引き続きこの中でできる最大限の努力をして行きます。生活の安心・安定で心配を掛ける事の無い生活をして行きたいです。次の近い目標は簿記2級合格で、今は毎日勉強の日々です。一つ、一つクリアできたら自信にもなると、頑張ります。
今年も残すところ、あと僅かです。今年を振り返ると、よく耐えてきたと思う。事故やケガをせぬように、また勉強を続けたりと、堪えてきたのが良い結果に結びついた。当たり前の事を当たり前に今後も続けたい。これからは冬本番、寒さにも耐えなければ。
どうか、お体を大切になさって下さい。まだ少々早いと思いますが、来年も宜しくお願い致します。

草々

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<鈴木⇒M>
M様
前略
師走を迎え、街にはX’masソングが流れる中、お手紙6日に届きました。
1類に昇類されて、また新たな決意での歩みを始められている様子に私も大変嬉しく思っています。簿記3級の次は2級をとの事で、それもぜひ頑張って下さい。以前にも話したかと思いますが、この大石との文通者の中には刑務所内での独学で簿記3級、2級とクリアして、次は1級をと頑張っている方もおりますので、希望を持って勉強を続けてほしいと思います。
又、今回の昇類ではご両親にも喜んでもらえ、そして安心してもらえる事がMさん自身の喜びにもなっている事と思いますが、その今の喜びをいつまでも忘れずに、それを今後の前進の糧として頂きたいと思います。

お祝いの言葉を送った大石の患者さんにも、Mさんからの「宜しく」との挨拶の言葉を伝えました。そしたら、その患者さんから「出所したら一日も早く大石で会いたいですね。待ってますよ」と伝えて下さいとの事でした。
その患者さんはアルコール依存症の方なのですが、20年ほど前までは飲酒を原因とする犯罪で三度の受刑生活を繰り返した方なのですが、その3度目の出所後は自分の病気(依存症)に気づいて大石通院を続け、今日までキッパリ、スッパリ酒を断ち、警察や刑務所とも完全に縁を切った生活を続けています。Mさんとはアルコールと性の違いはあっても、兄弟みたいな依存症による犯罪で受刑生活を体験した仲間としての想いを持っているようです。

今回のMさんの快挙は、大石HPでの文通公開によって共通の悩みを持つ全国の人々や家族を励まし、勇気づけていることでしょう。同時に、性依存症・性犯罪による受刑者がどういう努力、経過で更生への道を歩んでいるのかの一つの実例を世に示すという意味でも大きな社会貢献をしていると思います。
今、世の中には性犯罪者の出所後の再犯への不安から、「性犯出所者にはGPS装置を身に装着させ、人工衛星経由で24時間/365日に亘ってその居場所や行動を監視せよ」との声すらあるのですが、私が思うには、GPSより、性犯罪の原因となっている性依存症という病気に注目し、その治療の量と質を飛躍的に拡充するべきだと思います。そして、その為には「性依存症は治らない」とか「性犯罪者は再犯を繰り返す」、「だからGPSで監視を」と言った世の中の認識に、「本当ににそうだろうか?」と問いかけつつ、「性依存症者・犯罪者も理性を持った人間なのだから、こうすれば依存症を克服し、再犯を防止できる」との論より証拠の実例が欲しいですね。その意味で、今回のMさんの1類昇類と今日に至る経過にはその実例に繋がる大きな可能性が示されていると思いますので、今回の成果をステップとして更なる前進を続けて頂きたいと思います。

今回の1類昇類の話は、この文通に参加している他の受刑者の方をも励ましています。実は今回のMさんの手紙と同時にKさんという文通者の方からの手紙が届きました。Kさんも性依存症/性犯罪受刑者なのですが、11月中旬に私から出した手紙でMさんの1類昇類とその経過の話をしました。そのKさんから今回届いた返事の手紙でこの件に触れている部分を原文のままご紹介します。

「Mさんの1類昇類の話は、同じ性犯の私の立場から言えば大
きな希望ですし快挙だと思います。私がこれ以上昇類するのは
難しいかも知れませんが、Mさんのような方が身近にいるという
のは心強い限りです」

と書かれています。そのKさんも過去においてMさんと同様に「完璧主義」で周囲とトラブルを起こしたとの体験を手紙に書いています。だからこそ、「完璧主義」を克服して1類昇類を果たして前を歩むMさんの後姿に励まされ、同じ文通者としての心強さを感じているのでしょう。

先日の私が担当した大石のアルコールミーテイングで「いかりの綱の探し方」というテーマを提起して、その一例としてMさんの将棋の話をしました。子供の頃、お祖父ちゃんから「勝ったら50円あげる」と言われたのが切っ掛けで始めた将棋が今日の将棋好きに繋がっているという話をして、「いかりの綱」を探す一つのヒントとさせて頂きました。そのミーテイングでのいくつかの声を匿名にてご紹介しましょう。

◎Aさん:「自分は植物を育てるのが昔からの趣味だったが、何故か失敗ばかりするようになった。今思うにアル中になってからは植物を育てたいとは思っても、世話をするのが億劫になっていたからだと思う。酒を止めた今、植物を育てたいという思いを忘れずに育てれば、それが断酒の為の「いかりの綱」になるだろう」
◎Bさん:「私は釣りと将棋が趣味だったが、今日のMさんの話を聴いて、酒に近ずかないように、また将棋を始めてみようかと思った。釣りは金がかかり過ぎるけど将棋なら相手さえ見つければ、いつでも気軽にできる。新しい仕事に就いたばかりで周囲の事はまだよく分からないけれど、先ずは昼休みにでも将棋の相手を探してみたい」
◎Cさん:「私はアルコールと薬物の二刀流の依存症です。薬物では刑務所まで行ったのでもう2度とやるまいと心に誓っているが、アルコールの方はいくら飲んでも警察は捕まえてくれない(会場・笑)ので、確かに「いかりの綱」が 大事だと思う。Mさんの話を聴いて、私もアル中になる前の昔の自分に戻って、酒の防波堤になる没頭できる何かを探してみたい」

・・・等々といった声・声・声で、Mさんの「将棋」の話から幾重もの波紋が拡がったミーテイングとなりました。有り難うございました。

長くなりました。そろそろお開きにしたいと思いますが、この先寒い季節が続きます。身体が頑健なMさんかと思いますが、くれぐれも油断することなくお身体をご自愛ください。

草々

平成26年12月8日
大石クリニック相談員 鈴木達也