収監者との文通 Mさんからの手紙~①

NO IMAGE

収監者との文通

Mさんからの手紙~①(2往復分)

大石クリニックHPトップペー 参照 

拝啓
 一度もお目にかかっておりませんが、突然手紙を差し上げる失礼をお許し下さい。私も含めて父母が日頃からいつも大変お世話になっております。ありがとうございます。
 私の今の状況を報告しますが、○○刑務所から○○刑務所に移送され、炊場工場へ配属されました。作業の方は日々大変ですが、体は丈夫なので何とか頑張ってついて行っています。とても良い作業に就けたので、このまま引き続きがんばりたいです。
 刑が始まり、半年が過ぎ無事故で3類に進類できましたので、やっとすこし落ち着きましたので手紙を書かせて頂きました。初めて書きますので、何をどのように書いて良いものか分かりませんのでご挨拶だけさせて頂きます。今後とも何分よろしくお願い致します。
                      敬具

Date: 2013/03/24/21:52:25 No.882

Re:収監者との文通

Mさんへの返書

M様
前略
  はじめまして。私、大石クリニックにて相談員(文通担当)をしております鈴木達也と申します。このたびはお手紙を頂き有り難うございます。以前、ご両親とお会いしてお話をさせて頂き、お手紙をお待ちしておりました。お手紙によれば、受刑生活にも慣れて元気でお過ごしのようで、何よりの事と嬉しく思います。

 さて、お手紙の最後で 「初めて書きますもので、何をどのように書いていいものか分かりませんのでご挨拶だけさせて頂きます 」と書かれておりますので、まずは当院で行っている収監者との文通についてお話させて頂きます。
 当院では、各種依存症を原因とする犯罪にて各種司法施設に収監中の方々の治療・回復・社会復帰を心から願い、収監者の皆さんとの文通を行っております。なぜ文通なのか?と言えば、依存症という病気からの回復の為には、同病の仲間との依存症体験談の交流による心の触れ合いに大きな力があるからです。
 大石で文通を担当している私自身が元々はアルコール依存症患者ですので、その立場で依存症を原因とする犯罪で収監中の皆さんとの文通を行っております。もし、よろしければMさんもこの文通に参加してみませんか? 費用はMさん側の郵便料金のみご負担下さい。大石としての治療費等はいっさい頂いておりませんのでご心配なく。
 それと、最初のうちはやはり、何をどう書けば?との戸惑いもあると思いますので、参考までに文通テーマの例をいくつか列記します。

 ・「過去の自分と今の自分」 ・「犯罪の引き金」 ・「後悔と反省の違い」 ・「迷惑をかけた人達」 ・「償い」・「仲間との絆」 ・「気分転換」  ・ 「一番大事な人/物/事」 ・「治療の切っ掛け」 ・「自信と油断」 ・「誘惑・病的欲求との闘い」
 ・「自分にとっての落とし穴」
 ・依存症=病気と知って思う事  ・・・・等々

 以上、あくまでも参考ですが、手紙を書く入口のとっかかりとして頂ければと思います。

 配属先が炊場工場で良い作業と書かれていますが、お体には重々気をつけてお過ごしください。
 それでは今日はこの辺で失礼します。次のお便りを楽しみにお待ちしております。
                     草々
                                  大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/03/24/22:05:59 No.883

Re:収監者との文通

Mさんからの手紙

前略
 すぐにご返事を差し上げるつもりでいたのですが、回数が定まっているものでご返事が遅れて申し訳ございません。
 炊場工場ですのでヤケドや怪我などに注意しながら過ごしています。体は元気で、運動や筋トレもしていて健康で過ごせています。
 さて、参考にとテーマを頂きありがとうございます。沢山あり迷ってしまいますが、追って少しづつ書いて行こうと思います。今回は、「過去の自分と今の自分」について書いてみようと思います。今までは~今でもそうかも知れませんが、仕事でも、日常でも完璧主義で自分勝手に振る舞ってしまうようになっていました。私は刑務所は2回目ですが、前刑で○○刑務所にいた頃、細かい事を注意されると、言った者勝ち、言い負かせ者勝ちみたいな風で、それが身に付き、そのまま偉そうな態度で振る舞って、皆から嫌われるところがありました。又、直ぐに怒ってしまうので、信用を失くし取り返しのつかない状態になり、仕事もつづきませんでした。仕事はするが(好きなので)、一つの場所で続きませんでした。
 ですから、私は今回、ノートに自分の悪い所や欠点、今まで何が悪かったか、今後どのようにして行くか、などを書き込み、毎日見て忘れないようにしています。例えば、「運が悪かったと嘆いたら進歩は無い」→「どんな結果にも必ず原因があるので、その時・その時で反省し改める努力をしてこそ未来が拓ける」 「信用を失くしては、お詫びをしても取り返しがつかない」、「怒りは無謀に始まり、後悔に終わるものだ」 等々、繰り返し頭に入れて行動に移そうと思っています。
 過去の自分は、どうせあの人も、どうせこの人も要領良くやっている。どうせ私の事など何も分かってくれないなどと思い、人を信用せず、自分ばかりで人を憎み、腹を立ててばかでした。そして、自分は正しいと強く思い過ぎて相手に迷惑をかけてきてしまいました。いつからか、こうなってしまいました。そして、自分に都合の悪い事や嫌な事は直ぐに忘れようとし、楽な方・楽な方へと流れ、すぐにあきらめてしまっていました。今は少しづつ分かって来たので、諦めず人を信じ、前進できたら良いなと思います。
 これらは、ほんの一部ですが、今できる限り自分を見つめ直し、直せるるところは直し、他の人より遅れをとっている所を取り戻したいと思っています。
 人として当たり前の事を当たり前のようにコツコツとできるように、自分に負けないように真面目に過ごして行きたいと思います。それには、人を敬い、相手の気持ちになり優しく接する努力をしたいと思います。でも、これがとてもムヅカシイ。
 私ももういい歳です。次はありません。親もそうです。今回でしっかり更生しないといけない。今は本気で思っています。それが前回と違うところです。
 こんな感じになってしまいましたが、どうでしょうか。今後とも何分宜しくお願い致します。また書きます。
                      草々
                       M

Date: 2013/03/24/22:33:24 No.884

Re:収監者との文通

Mさんへの返書

M様
前略
 お手紙、嬉しく読ませて頂きました。ありがとうございます。 毎日炊場で働き、又、筋トレで身体を鍛えられ、元気でお過ごしのようで私も嬉しく思います。今後ともよろしくお願い致します。
 
 さて、今回のお手紙では、「過去の自分と今の自分」について書かれていますが、私自身も色々と教えられる思いで読ませて頂きました。完璧主義から来る周囲との摩擦がストレスになり、そこからの逃避を酒や薬物、ギャンブル、犯罪行動に求め、それが慢性化して各種依存症に至るというケースが非常に多いですね。物事を最後まできちんとやり遂げようとする思いは決して短所ではないのですが、やり過ぎてストレスに繋がるとやはり問題になるわけですね。「過ぎたるは、及ばざるが如し」とは、昔の人は真実を言い当てていると思います。私自身振り返って見ても、やはり、そんな一面があったような気がします。何事にも完璧を求め、そこから来る息苦しさをアルコールで乗り越えるという、そんな一面があり、その行き着く末がアルコール依存症だったわけです。しかし、今それを後悔しても始まりません。 大事な事は、<後悔→自己嫌悪→絶望> ではなく <真の反省→克服の努力→回復・更生>だと思います。その意味で、Mさんが今、ノートを作り、その内容を更生に向け実際に活用されているのは、理に叶った歩みだと思います。このノートによる自己管理という方法は、依存症やうつ病への治療法として今日全世界的な脚光を浴び、広がりをみせている「認知行動療法」 に通じる中身をもっているように思います。ですから、自信と希望を持って、ノート作りとその内容の実践を続けて下さい。  
 お手紙では、過去の人間関係の問題についても触れられながら、その克服への思いについても書かれています。確かに、人間関係には難しい一面もあり、決して人を信用してはならない局面もあります。昔から「人を見たら泥棒と思え」という何とも冷たい格言があるくらいですからね。「オレオレ詐欺?」らしき電話の相手を決して信用してはなりません。しかし、その一方では「渡る世間に鬼は居ない」という、温かい格言もあります。それも確かな現実だと思います。例えば、地震や台風といった自然災害の被災地での被災者どうしの助け合いや、全国から駆け付けたボランテイアの姿にその例を見ることができます。
 そして、この人間が本来的に持つ温かさを私は、自分自身の依存症治療の中で体験できたと思っています。依存症治療の原理は,同じ病気の治療仲間との体験談の交流、仲間への共感による心の触れ合いの中にあります。同じ病気による同じ苦しみが共感を呼び、連帯感につながります。そして仲間との絆が,仲間と共に、酒を、薬物を止めて行こう、2度と同じ犯罪を犯さないようにしようという思いと力につながります。そこから生まれる仲間への感謝の思いが人間的な信頼関係へとつながります。
 Mさんも、出所後はぜひ治療に繋がり、仲間との新しい人間関係を体験して頂ければ良いなと思います。お手紙の中で、過去の自分は 「どうせ誰も私の事など分かってくれないなどと思い、人を信用せず、人を憎み、腹立ってばかりだった」 と書かれていますが、仲間との体験談の交流の中で、全く逆の思いをされると思います。 同じ病気で同じような辛い体験をした仲間の話は分かりたくなくても分かります。逆に自分も仲間から理解してもらえます。そうでなければ、心の触れ合いの場である集団精神療法で多くの回復者が出るわけがありません。
 今日では、刑務所内でも各種依存症を対象とした治療プログラムが組まれるようになっていると耳にしておりますので、もしそういう機会がありましたら、まずは見学からとの思いで顔を出してみてはいかがでしょうか?

 では、身体に気を付けてお過ごし下さい。
                      草々
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/03/24/22:50:36 No.885