収監者との文通 Cさんからの手紙

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収監者との文通

Cさんからの手紙

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及び 当掲示板No.555 以降Bさんとの文通参照

大石クリニック相談員 鈴木達也様
前略
 明けましておめでとうございます。2012年の新しい年がやって参りました。新しい年、1年の初め、その年の新たな節目であり、スタートでありますね!!
私は、2012年・平成24年1月6日(金)に××から○○刑務所へ移送となりました。この○○が決定の刑務所であります。そして、1月10日(火)に分類面接が○○でありました。その面接で言われたのですが、ごく最近決ったそうですが、○○は性犯罪者が行く刑務所で、工場も性犯ばかりの工場で働くそうです。そして、性教育を受けるシステムがあると言っていました。私もこれを受けると答えました。それは今後犯罪をしない事が前提であり、受ける・受けないは本人の意志だとも言っていました。そんな事で、私は出所するまでここ○○刑務所になると思います。

 鈴木さん、去年・平成23年12月18日付のお手紙の中の、大石の外来ミーテイングで使った資料「仏法僧の脳の科学的研究」文書、および、瞑想⇒脳・心の安息についての図解、大変にありがとうございました。私は、「心と脳」についてや、人間の身体・生命論的な事に少々興味があるので、嬉しく拝読しました。
 私は、宗教としての仏教の信仰者なのですが、仏教の発祥の地であるインドに誕生したお釈迦様は瞑想を菩提樹の下で行い、悪魔を降伏したとあります。確かに瞑想をすると、身体に良い影響を与えることは聞いたことがあります。また、仏教では「禅定」(ぜんじょう)と言って、心を一ヶ所に定めて思索することによって、汚れを無くして行くことが出来るとも言われています。
 私は、これらの言葉は知っていても、犯罪を何度も繰り返しているようでは、本当の仏教の信仰者とは言えませんね!! 宗教・仏教者とは、人々の為に良い事を為す者たちであるのに、私はそれに反しているので、なおさら問われるでしょう。
 この様なことから、私も仏教の教えのように「蓮華」(れんげ)を見直さなければいけません。この「蓮華」とは、汚い泥沼の水の中から美しく白い華(はな)が咲くということで、人間も環境の悪い中(汚い泥沼)にいても、決して悪に染まることなく正しい人間(美しく白い華)になるように、心が浄化されて行く為に瞑想・禅定などが大事となるのです。
 ですから、私も出所後には大石クリニックに通院しながら、瞑想の治癒力を借りて、犯罪性の無い自分を作りあげて行くように努力して行きたいと思いますのでよろしくお願いします。

 安息の生物化学の図解には、脳・肺・心臓・血液・胃・腸・膀胱・筋肉・ホルモン・皮膚・免疫システム等に良い影響があると書かれていますね!! 免疫システムにも良いとは知りませんでした。驚きでしたよ。
 その他、拘置所に居た時に読んだ官本に、人間の脳ではロゴス脳とパトス脳:言語脳と感情脳の分業が成立していると書かれていました。通常ロゴス脳が左脳で、パトス脳が右脳です。冷静で論理的な思考判断は左脳が行い、感情的・情緒的発想は右脳が行う分業だと書かれていました。
 そうしますと、私の場合は、左のロゴス脳・冷静で論理的思考判断が弱く、右のパトス脳・感情的で情緒的発想が強く、感情的なものに流されてしまい、犯罪性に至ってしまうのでしょうか? 大変興味深いことですが、脳医学的で難しいことであります。仏教の瞑想・禅定で、脳のシクミを正常化する事が出来るものと信じます。
 それも、自分の心がけ次第だと思いますが、頑張りたいと考えています。お釈迦様は「自分の中の依存する心、歓楽に耽る心と闘うのです」と言い、執着し依存する事がいけない体にも心にもなると言っています。私の場合も、今まで執着し依存して来た事が犯罪の原因だったのかも知れませんね!
 仏教の教えには、「宿業論」という言葉もあります。つまり過去世の業が体内に宿るのですね。心地観経というお経に「過去の因を知らんと欲せば、その現在の果を見よ、現在の因を知らんと欲せば、未来の果を見よ」とあり、因果は三世にわたって存在すると同時に、業も宿るのだと言うのです。
 私の犯罪行為というのは過去の宿業であり、仏教上の教えからも、並大抵の努力では消し難い事かも知れません。なので善をすすめ、悪を断つのは、この宿業を良い事で少しずつ消し取って行くものです。その為、私の良い行いを具体的に定めて行く事が償いなのかも知れません。

 本日はこのくらいにさせて頂きます。そして最後に(以前にお願いした)天文の本を送って下さい。よろしくお願いします。それでは又、来月の2月の文通を忘れずに心に留めます。

草々
           平成24年1月12日 C
↓Cさんへの返書

Date: 2012/01/22/21:45:45 No.712

Re:収監者との文通

Cさんへの返書

C 様

前略
 1月12日付のお手紙、拝読しました。有り難うございます。遅ればせながら、本年もよろしくお願いします。
 
1月6日に現施設に移送され、性依存症の治療プログラムも受けられるとの由、私も嬉しく思います。大石クリニックでも、性依存症の診断後5ヶ月間、認知行動療法に基ずく治療プログラムが設定されておりますが、受刑中からそれに繋がる回復への学習・治療ができると思います。
私も、大学の先生や男性看護師さんと一緒に大石の性依存プログラムに参加させて貰っていますので、いずれCさんと一緒に勉強できる日が来るのを今から楽しみにしています。
 
同時に、治療の一環として瞑想も続けたいとの事で、私も微力ながら応援させて頂きたく思います。前回お送りした瞑想についての資料も喜んで頂いたようで嬉しく思います。仏教の瞑想、禅定、宿業論等についても興味深く読ませて頂きました。
お送りした瞑想の資料はドイツの「FOCUS(フォークス)」という総合週刊誌の医学記事の一部の翻訳なのですが、同誌はドイツを代表するメデイアの一つであると同時に、ドイツ国内のみならず日本も含めた全世界を市場としている一流誌ですので、記事内容も信頼できるものと言って良いでしょう。日本でも大手書店の洋書コーナーで入手できますが、今日では発行の3週間後にはインターネットでも記事を読める時代になり、世の中の進歩をしみじみ感じています。
 資料を掲載した記事は「心は身体をどう治すのか?」とのタイトル見出しです。記事では、アンネッテ・レクスロートという実在のドイツ人女性の乳癌との闘病を紹介しています。
≪乳癌との闘い≫
 彼女は、35歳で3人の幼子を抱えながらスペイン領事館で通訳として働いていた時に乳癌の診断を受けました。それもリンパ節にまで転位しており、余命はもう長くはないとの厳しい診断でした。彼女は3人の幼子を抱えての死の宣告に一時は絶望的気分に落ち込みましたが、手術、放射線、化学療法による身体の治療を受けつつ、心理療法士の助言に励まされて心の治療にも取り組みました。その心の治療とは、瞑想をはじめ呼吸法やヨガ、同病患者とのミーテイングなどを組み合わせたもので、人間が元々体内に有している自然治癒力を引き出す治療法と言われています。乳癌が治癒した訳でなく、心の治療により身体の免疫力や防御力が発揮され癌と穏やかに共存しているようです。この心と身体の治療全体が「マインド(心)・ボデイ(体)治療」と命名されています。
 この治療の結果、彼女は記事に紹介された時点で、既に5年間、元気に生き続け、自分の闘病生活を著した本を発行したり、ドイツ全国で講演をしたりしながら、同病の女性患者を励ましています。更に、この記事が世に出て既に9年が過ぎている今日現在も自分のホームページに元気な笑顔を見せています。そして、この9年間には、特に幼子を抱えた乳癌患者のマインド・ボデイ治療を支援するアンネッテ・レクスロート財団法人を設立して活躍を続けています。
 ・・・さて?、14年前の「進行乳癌・余命長くはない」との診断は何っだったのでしょうか? それは、マインド(心)を視界から外したボデイ(体)のみの診断だったのではないでしょうか? 彼女の14年には、ボデイ治療を支えるマインド治療が大きな役割を果たしているように思うのです。人間が歩く時、1本足でピョンピョン跳んでも直ぐに疲れて道端でへたばってしまうでしょう。でも2本足を交互に前に出す歩き方なら何キロでも楽に歩けますよね。マインドとボデイも同様で右足と左足の関係にあるのだと思います。
 
 さて、依存症という脳神経(身体)の病気のボデイ治療に目を向けると、例えば、アルコール依存症者の脳神経とホルモンに作用して飲酒欲求を一時的に抑える薬剤(「アカンプロセート」:日本では未認可)が登場して来ていますが、海外での治療結果を見ると、この薬によるボデイ治療と、心の治療(ミーテイング、カウンセリング等)の初歩的な2本足治療で断酒率が一定程度は上昇しているようです。
 この薬が、性依存症者の例えば、痴漢欲求も抑えられるかも知れないとの発想や研究もあることはあるのですが、性欲そのものを全体的に奪ってしまうのも問題だとされています。
 結局、依存症のボデイ治療は未だそういう段階で、依存症そのものを治癒させる展望には今世紀から来世紀までの広いスタンスが求められるようです。従って、依存症治療においては、マインド、つまり心の治療が主流を占め続けると思います。それだけに、これから始める刑務所内での治療プログラム、出所後の大石通院を重視すると同時に、規則的な瞑想も継続して欲しいと思います。それにより、お手紙に書かれていた左脳・ロゴスが鍛えられて理性・論理的思考力が成長し、それが右脳・パトスを上手にコントロールする力に繋がるのだと思います。その為に、私もこの文通を通して本当に微力ながらお手伝いさせて頂きたいと思いますが、それは又、自分自身のアルコール治療にも繋がると思うので、Cさんとの月1回のこの文通は自分自身の為でもあると位置付けて続けさせて頂きたいと思います。

 最後になりましたが、「天文年鑑:2012」を同封しますのでお受け取り下さい。これも、以前お話した問題行動への心の漂流を防止する「錨の綱」として力になり、心の治療の一環ともなると思いますので、趣味として楽しみながら治療に役立てて頂ければと思います。

 暦で言う大寒の時期ですが、暦通りに本当に寒い日が続いています。体調には十二分に気をつけて、風邪などひかないように御自愛下さい。また来月のお便りを楽しみにお待ちしています。

                      草々
       平成24年1月23日
        大石クリニック相談員 鈴木達也