収監者との文通 Cさんからの手紙

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収監者との文通

Cさんからの手紙

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及び 当掲示板No.555 以降Cさんとの文通参照

大石クリニック相談員 鈴木達也様
前略
 平成24年1月23日付のお手紙、26日に到着して拝読しました。
 また、お願いしていました「天文年鑑」の本も届きました。本当に有難うございました。
 さて、私がここの施設に来て、当所の考査期間2週間と新人訓練期間2週間がすぎましたので、工場配属となりますが、私の場合は性教育を8ヶ月受けた後に、正式に工場配属となるようです。今は仮の工場配属です。
 教育には、性教育、薬物教育、酒害教育等があるようです。真面目に教育を受けて、再犯を繰り返さない様に刑務所生活をするつもりです。
 鈴木さんの手紙の中で、ドイツ人の女性の乳癌との闘病の記事を紹介してくれています。「心は身体をどう治すのか」とのタイトルの記事でした。私は、これを読んでこう感じました。「心は人間の身体(病気)をどのように治すのか」;諺に「病は気から」とありますように、その人の気の持ちようで、良くも悪くもなります。すなわち、本気で病を治すとき、その人の強い気持ちが病を治すのです。これは、医者が治すのとは違います。
これがいわゆる「自然治癒力」なのだと思います。
 仏教の教えには、病に「四〇四病」(404の病気)があると説かれています。
 また、病の起こる因縁に六つあると説いています。それは、
(一) 座禅調わざるが故に病む
   (ざぜんととのわざるがゆえにやむ)不摂生な姿勢
(二)飲食調わざるが故に病む
(おんじきととのわざるがゆえにやむ) 暴飲暴食
(三)気調わざるが故に病む
(きととのわざるがゆえにやむ) 気の持ちよう
(四)謗法の起こるが故に病む     法を謗ること
(五)精神的病気
(六)天の魔王が人の身体にはいる病 とあります。 

この中の、第五番目は非常に治し難い病気で、第六番目は絶対に医師の力では無理とされています。そこで仏教に頼る以外にないと説くものです。
そこで、私の性依存症も「気の持ちよう」で治らない・治せない・無理だ!!などと思ったのでは、いつまでたっても治せるものではないと思えるのです。治そうとする努力が必要となるでしょう。この乳癌の女性も、強い意志や目標があったのではないでしょうか。

 次に話は変わりまして、ある本を読んでいましたら、「時間とは何か」について、ハイデッガーという人は、人間が存在している意味―人間が存在することを可能にしているもの、それが時間性だと言います。歴史と言わず時間と言っている。人間が全体的に、本来的にこの世界に存在するには、死という可能性を目指しながら自分を見る、つまり未来を見ると同時に過去を見て自分の非力なことを知り、同時に現在を見て自分を解放する。つまり「過去を見つつ現在にある未来を見る」というのが人間存在の意味、つまり時間性だと言っている。そして、道具的なモノや自然などもそこに含まれている。そして我々の本来的歴史性は「宿命」だという。更に、共同体や民族だのに共通した宿命が運命だって言っている。
 これを読んだ自分は、刑務所で生活している時間と自己の存在性ということが、生から死への可能性の中で、自らの犯罪を、過去を見つめて同時に現在があり、現在の中で未来の更生する姿があるのであり、三世に渡る「運命」・「宿命」だと感じ取れたのです。その自分自身の存在とは、犯罪を犯すための三世の「宿命」・「運命」だと感じ取れたのです。
 その自分自身の存在とは、犯罪を犯すための三世の 「宿命」・「運命」だとは真に悪人でります。
 仏教で、三途の川を渡る時人の罪の重さにより異なる三つの流れの川がある。善人は金銀七宝で造られた橋を渡り、罪が軽い人は山水瀬(さんすいらい)の浅瀬を渡り、罪の重い人は強深瀬(ごうしんらい)を渡るとされています。「地蔵菩薩発心因縁十王経」(じぞうぼさつほっしんいんねんじゅうおうきょう)に由来するものです。
 私の場合は、間違いなく強深瀬を渡ることになります。そして、衣類を剥ぎ取られ、罪の軽重を計り、「ダツエバ」、「ケンネオウ」という鬼によって衣類を樹に掛けられるのです。冥土・黄泉の国・あの世の世界であろうと思います。
 また、鬼は閻魔大王に報告をし、生前の罪を映し出す鏡にかけられ、罪状を書く閻魔帳があると言われています。

 次の話に移り、「天文年鑑」の本を楽しみながら読まさせて頂いています。それによれば、今年の5月21日は金環日食の起こる日です。また、この5月21日は私の誕生日でもあります。皆既月食の写真は撮りましたが、日食は撮影したことがないので、非常に悔しく思います。通称「ダイヤモンドリング」と言って、太陽表面の「コロナ」などが見えて、とてもきれいです。こんな時に刑務所ですからね! 趣味も出来ない。犯罪がつくづく「バカゲタ」行為であると分かります。

 最後になりますが、五月21日は誕生日でもありますので、この日の日食の新聞をとっておいてくれませんか、出所した時に新聞の記事を欲しいと思います。
 また、先月の手紙に書きました、私の父親への伝えて欲しいことはどうなりましたか?(お金を送って欲しいこと)

 それでは、性教育を今年の10月頃まで受けて、工場へ行って作業するまで、再犯のないように教育を受け、その報告を 後に手紙で知らせます。
 それでは、さようなら。まだ寒いので風邪をひかないように気をつけて下さい。

                     草々
            平成24年2月9日 C
 ↓返書      

Date: 2012/02/19/18:14:17 No.724

Re:収監者との文通

Cさんへの返書

C 様
前略
 2月9日付のお便り、嬉しく拝読しました。自分自身への約束をしっかり守って、毎月きちんと手紙を書けるというのは本当に素晴らしい事だと思います。自分との約束を守るという事は一般的な意味で素晴らしいだけではなく、依存症治療を継続する上でも不可欠な要素と言って良いでしょう。
 大石で行われている性依存症への認知行動療法の中で、1週間の予定表作りというものがあります。そこには直接的な治療予定だけではなく、7日間の内の日々の24時間の生活予定を書き込みます。当然の事ながら、そこには性的問題行動に繋がらない日々の生活プログラムが書き込まれるわけですが、それを自分自身への約束として1週間毎・(通院日から次の通院日)毎に実行するわけです。この自分への約束を破らず実行し続ければ、結果として必然的に性犯罪と無縁の日々を継続できるわけですね。同時に、毎回のミーテイングで1週間毎の自己点検や反省もできるわけで、それも再犯防止に役立つわけです。
 自分との約束を守って定期的に手紙を書き続けるという事は、出所後、やはり自分との約束である週間予定を確実に実行する訓練にもなることと思います。その前にCさんの場合は、刑務所内で8ヶ月間の性教育を受けられるそうですが、そこでも大石での治療につながる力を得られると思いますので、刑務所でもしっかり受講して頂ければと思います。この、刑務所内での性教育⇒出所⇒大石での5ヶ月間の認知行動療法⇒大石でのテーマミーテイング(Cさんが以前の通院で参加していたミーテイング)という年月の流れの中で、以前の出所後とは異なる治療・回復の道が拓かれて行くことでしょう。

 仏教の詳しいお話も色々と有り難うございます。大変興味深く読ませてもらいました。
 お手紙を読みながら、はて?、私は三途の川のどの流れを渡ることになるのかな?と、ふと考えてしまいました。酒を飲んでいた最後の頃の自分を思うと、つまり:飲酒が原因で失業し、文無しになるまで飲み続け、心身共にボロボロになり、生活再建の見通しが立たないままに、ついに妻と義父母から「三下り半」を突きつけられ、その後は実家の母の所で居候しながら飲酒の問題で母にさんざんの心配と迷惑をかけていた頃の自分を思い起こすと、私も間違いなく「強深瀬」を渡らせられるのだろうなと思いました。
 しかし、こうも考えました:私は断酒前の最後の5年間は毎日毎日、一日も休まずに一升の酒を飲み続けました。つまり一日の平均飲酒量は一升でした。断酒を始めて5年が過ぎた時にふと思いました。「この10年間での1日の平均飲酒量は?」と。前半の5年間は毎日一升ずつ飲み、後半の断酒の5年間は当然日々0升だったわけですから、10年間での日々の平均飲酒量は当然5合となるわけです。その後更に10年断酒して同じ計算をして、計20年間の平均を計算して、当然5合の半分で2合半になりました。こうして断酒を続ければ続けるほど一日の平均飲酒量が低減し続けるわけです。
(プロ野球の打者がシーズンの前半で3割を打っても、後半でヒットを1本も打てなければ、年間打率が1割5分になるのと理屈は同じです)
 現在では(飲酒期間最後の5年)+(断酒期間17年)=22年が経っているわけですから、1日の飲酒量は2合半を下回っているわけです。だから、今、あの世に逝って閻魔様に「お前は一日にどのくらい酒を飲んでいたか?」と問われて、「はい、2合4杓ぐらいです」と答えても、嘘ではないので舌を切られることもないし、三途の川も、ひょっとしたら「山水瀬」ぐらいにおまけしてもらえないかな?なんて勝手な思いに耽りました。更に、単に断酒を続けるだけでなく、自分の酒害体験を断酒会や仕事で仲間や大石の患者さんの為に役立てて「善行」?を積めば、「金銀七宝の橋」を・・?なんて欲張った思いも頭をかすめました。
 Cさんも、「自分はまちがいなく強深瀬を渡ることになる」と書かれていますが、それは過去の性犯を繰り返していた頃に限定しての話だと思います。刑務所でしっかり罪の償いをし、出所後も治療・回復・更生・社会復帰の道を歩み続けるなら、それは山水瀬から金銀七宝の橋への道になると思いますよ。

 次に、5月21日のCさんの誕生日の日に金環食があるので、その日の新聞記事を取っておいて欲しいとの由。もちろん、OKです。複数紙の記事をラミネート加工して保存版にしておきます。又、ネットの動画ニュースも収録しておきますので、出所・大石来院の日を楽しみにしていて下さい。ただお天気だけが心配ですね。ダイヤモンドリングも見れるように、必ず晴れるよう祈るのみです。
 それと、「天文年鑑・2012」についてですが、私もこの本を購入して自室の本棚に収めておりますので、今後のお手紙でこの本の内容に触れる場合には、何ページの何行目とか、その部分のタイトル等を付記して頂ければ嬉しく思います。
(今回の金環食については冒頭部に書かれていたので、P44~47までを含めて直ぐにわかりました) 
 私もCさんと一緒にこの本との触れ合いを深めたいと思っておりますので、御指導・御指南のほど宜しくお願いします。

 最後になりますが、お父様への送金のお願いの件ですが、それはこの文通の趣旨に含まれないと思いますので、家庭内の問題として家庭内で処理して頂きたいと思います。悪しからず御了解下さい。

 まだ、暫くは寒い日が続くと思います。くれぐれもお身体を御自愛下さい。
 また来月のお便りを楽しみにお待ちしております。

草々
平成24年2月20日
 大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2012/02/19/18:53:58 No.725