収監者との文通 Oさんからの手紙

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収監者との文通

Oさんからの手紙

大石クリニックHPトップページ参照

<大石雅之院長宛>
前略
 このような内容の手紙を書きました事をお許し下さい。
 実は私、わけありまして○○刑務所に入所している者です。今回まで何度も懲役を重ねています。今回このような手紙を書く事を決めた理由は、私の犯罪で被害者はもちろんのこと、私の家族も苦しめて来て、私自身がこの犯罪を止める事が出来ず、悩み苦しんでいるからです。
 私の今回の罪名は「強制わいせつ・のぞき目的の建造物侵入」です。今までの懲役では、私自身もただの性癖、ビョーキだと思い込んで来ました。私自身努力しても止める事が出来ませんでした。そんな事を考えているうちに、又々の懲役です。今回は初めての「強制わいせつ」の為、刑も少し長いです。
今回の懲役に入る前に、拘置所で私と同様の件で来ていた人から見せてもらったコピーに、今までの私がやって来た事、考え方などがそのまま書いてありました。その病名が「性嗜好障害」だったと思います。もし本当に病気であれば治す事が出来るのではないかと思い、色々と手を尽くし、やっとのことで先生に辿り着くことが出来ました。出所後は先生の所に通うつもりでいます。
 多分私は今回の刑で「性犯罪抑制プログラム」を受ける事になりますが、今回、ここの刑務所に来る前の刑務所で受けた分類の時、このプログラムでの再犯率は60%だと聞きました。分類を受けt性犯罪受刑者の半分くらいは本気で悩んでいます。みんな本気で治したいと思っています。
 多分、私自身の病気の根も深いと思っています。その為ここでプログラムを受けても60%に入ってしまうと思います。できる限り40%に入れるようにしますが、どのような事をするのか解っていません。その為にも出所後、先生に診て頂きたく手紙を書きました。ここの刑務所の教育の先生も大石クリニックの事は知っているそうです。
 私の満期は、平成28年2月ですので少し時間があります。その為、その間に私自身に出来る事、何を考えて行けば良いのかを教えて頂きたいのです。満期時の年齢を考えますと、もう絶対に後戻りはできません。もう、ここには絶対に戻って来たくないのです。今迄色々な思い、考え方を変える様に努めて来ましたが、変わるどころか以前よりもひどくなっています。一日も早く今の自分を変えたいと思っています。今回の懲役で本気で治したいので、先生のお力をお借りして、人生をやり直したいと思っています。
 初めてのお手紙で大変失礼な事ばかり書いた事をお許し下さい。今迄の犯罪も病気だと思えば絶対に治せると思っています。先生、どうかよろしくお願いします。 乱筆乱文等、お許し下さい。
        草々
  大石雅之先生                         平成25年6月13日 O(オー)

Date: 2013/07/11/22:34:46 No.942

Re:収監者との文通

Oさんへの返書

O(オー)様
拝啓
 はじめまして。私、横浜の大石クリニックにて相談員(文通担当)をしております鈴木達也と申します。この度は、大石雅之院長宛のお手紙を頂きまして有り難うございます。院長よりの指示にて御返事を書かせて頂きます。以後よろしくお願い致します。
  先ずは、簡単に自己紹介させて頂きます。私は今大石クリニックにてリカバリー相談員として仕事をしております。リカバリーとは「元に戻る」という意味ですが、私の場合には、自分自身のアルコール依存症から断酒治療によって元の酒を飲まない健康な生活に戻っているという意味でのリカバリー相談員です。即ち、自分自身の依存症体験(依存症の進行・ドン底・回復体験)を基に患者さん達と触れ合い、同病の仲間としての共感を分かち合いながら、共に回復への希望を確信し合うというのが私の仕事です。
 従って、Oさんとは依存の対象は異なりますが、性嗜好障害(通称・性依存症)とアルコール障害は同じ依存症として土台の所で共通している面が多いので、Oさんとも、心の触れあいの中で共に共感し合える事が多々あると思います。実際に私は今、大石の文通担当として多くの性犯罪(性嗜好障害)受刑者の方々とも文通をさせてもらっておりますが、その中で出所後の大石通院・社会復帰に向けて日々の努力を続けられている受刑者の皆さんに私自身も励まされる思いがしております。

 さて、お手紙を拝読して、「性嗜好障害を克服して、再犯を犯すことのない自分になりたい、その為に専門治療に繋がりたい」との、今後の人生への切実な思いがひしひしとこの胸に伝わる思いがしております。それだけに、Oさんが新しい人生に向けての確実な第一歩を踏み出されているなと感じ取っています。自分自身の依存症を認め、依存症が他のあらゆる病気と何ら変わらない真の病気と認識して、専門治療を決意した時の事を「ターニングポイント」(折り返し点)と言いますが、Oさんは今正に、依存症人生から健康な人生への折り返し点に立ってスタートされようとしています。決して「まわれ右 !! 」することなく、前に進み続けられるよう期待し、それを信じております。
 
 では、先ずは具体的に何をすれば良いのか?です。お手紙でも「出所まで少し時間があるので、私自身にできる事、何を考えて行けば良いのかを教えて頂きたいのです」と書かれています。そこで先ず、同封の別紙(大石ホームページ)の右側のマル囲みの中をお読み下さい。そこにも書かれているように当院では、依存症犯罪で全国の刑務所・拘置所・留置場等に収監されている方々との文通・匿名公開を行っているのですが、Oさんも出所・大石通院の日までの間、この文通に参加されてみませんか?
 通院で行われる依存症治療の柱は、①主治医による診察/カウンセリング、②依存症回復への集団学習(認知行動療法)、③患者様どうしのミーテイング(体験談交流)が主要な柱となりますが、この文通は、通院が不可能な収監者の方々向けの②、③の文通版として4年ほど前から実施しております。③の「患者どうしのミーテイングが何故治療になるのか?」との率直な疑問の声をよく耳にしますが、患者どうしだからこそ、依存症体験を素直に語り合えるし、そこから、深い共感と回復に向けての連帯感・絆が生まれ、それが依存を止める力となるわけです。お手紙で、「今迄色々な思い、考え方を変える様に努めて来ましたが、変わるどころか以前よりもひどくなっています」と書かれていますが、その原因は、WHO(世界保健機構)でも正式に病気として認定されている「性嗜好障害」という病気に個人的な努力で対決しようとしたからだと言えるでしょう。ですから、受刑期間中に治療の第一歩として、まずは、この大石との文通ミーテイングを始めてみませんか?
 文通の公開についてですが、現在12名の収監者の方々と文通をしておりますが、その内の半数・6名の方の御了解の下に匿名公開を行っております。公開によって同じ病気に苦しむ本人、家族の方々に依存症からの回復への希望の道を事実が持つ力で訴える事が出来るでしょう。それによって収監者の皆さんは社会への貢献を感じて、良い意味での自尊心を回復させる事が出来、反省とは異なる不要且つ有害な自己嫌悪・自己否定・劣等感などから解放されることでしょう。 、
又、公開ですので、収監者の皆さんのプライバシーの保護及び、被害者や家族の方々にもご迷惑を掛けないために、刑法第134条(守秘義務条項)<=追伸・米印参照>を遵守して万全を期させて頂きます。その為に、氏名、年齢、収監先施設の固有名詞、事件の日時・場所、その他の本人の特定につながる文言は一切伏せさせて頂きますので、その点はご安心下さい。その為、公開文にはOさんが書かれた原文を一部修正する部分もありますので悪しからず御了解下さい。 参考までに、公開を仮定した今回の往復書簡を同封しますので公開の諾否について考える参考にして頂ければと思います。尚、公開する場合のOさんの公開名は勝手ながらOさん(アルファベットのオー)とさせて頂きます。 以上が、文通・公開の主旨ですが、文通への参加・公開の諾否についての御返事をお待ちしております。文通内容、その他の疑問などありましたら、どうぞお気軽に・遠慮なく手紙でお尋ね下さい。
 長々と書き連ねてしまい申し訳ありません。梅雨時のうっとうしい気候が続いております。お体には重々お気をつけ下さい。今日はこれにて失礼します。
                       草々
          平成25年6月23日
          大石クリニック相談員 鈴木達也
追伸
米:刑法第134条(秘密を侵す罪)
第1項 「医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」

 私は大石の医師、薬剤師・・等々ではありませんが、文通担当として、当然の事としてこの条項を遵守させて頂きます。

Date: 2013/07/11/22:47:31 No.943

Re:収監者との文通

Oさんからの手紙

前略
 6月25日にお手紙が届きました。お忙しい中、私なんかの為にお時間を取らせてしまい本当に有り難うございます。今回の手紙を読んでいて、本当に涙が止まりませんでした。私からの手紙なんかは迷惑になるのでは・・・と思いながら出した手紙です。それがこんな形になって返事が来るとは思いもしなかった事です。
 私のくだらない話を書く前に、文通の件ですが喜んで参加させて頂きます。前回書かせて頂きました手紙ですが自由に使って頂いて結構です。私のように手遅れになる人が少なくなれば本望です。
 ・・・・公開文につき一部略・・・・
 実は、鈴木先生からの手紙の全文、一字一句もらさずノートに書き写しました。時間があまり無かったけれど、私の更生の為にも残しました。

本題に入りますが、私は何をどのようにすれば良いのでしょうか?鈴木先生の手紙には治療の柱として①~③までを挙げてありますが、これはアルコール、薬物と同様な方法でしょうか? 実は私、この刑務所で「新入教育工場」の衛生係として受刑している為、教育用のDVDを見る事が多々ありますが、ダルクなども同じ様な事をしていると聴きます。鈴木先生は収監者向けの②~③の文通版を実施されておりますが、私からの手紙に最初からの事を書けばよろしいのでしょういか? 文面等と書き方の方法等も教えて頂きたいです。薬物の場合、治療期間は薬物に係ってからターニングポイントまでの期間の約3倍の時間がかかると聴きましたが、性障害の場合はどのくらいの時間がかかるのでしょうか?私の場合、薬物やアルコールは関係ありませんが、酒は好きです。
 確かに③の患者どうしのミーテイングは大事だと思っています。ここへ来る前の分類の時に同じ犯罪者達と話をした時、すごく相手の気持ちが解りました。解り合えた人達は同様に「止めたくても止められない」と悩んでいました。中にはやって当たり前と思っている人や、何が悪いのか解っていない人もいましたが、それは別として本当に苦しかったです。その時、今まで一人で悩んで誰にも話す事が出来ずにいた自分は何だったのか?そんな気になりました。でも、今の所内でこんな話は出来ません。
 もしこの文通のシステムが私自身の苦しみを取り除いてくれるのなら頑張って取り組んで行きます。分類の時の人達も池袋の病院と大石クリニックの事は知っているようなので通う事になると思います。みんな辛い思いをしています。ダルクと同じ様に「今日を我慢する」なのでしょうか?本当に治るのでしょうか?この様な手紙を書いていても心配になります。
 WHOが病気として認めているという事は世界でこの病気の研究がされているのだと思いますが、この病気の事を世界で何人の人が知っているでしょうか?前回の手紙にも書いたと思いますが、私の様にただの性癖・ビョーキだと思っている患者が大半ではないでしょうか?現に私がこの病名を知るきっかけになった人も、本人は病気としての認識はなく「趣味・嗜好がそのようなものだっった」と話していました。私にも同様なところがあり、病名にたどり着くまで30年かかりました。
 人に平気な顔をして話せる内容でない為、私のように苦しんで、人生で損して来た人も多いと思います。私も家族に迷惑をかけ放しで辛い思いをさせて来ました。もう一度チャンスがあるのなら、今度こそこの病気と闘って治したいと思っていますので、どうかよろしくお願いします。病気だと知る事が出来たのは、私にも運が回って来たと思って、人生を変えてみたいです。

 長々と書いてしまい申し訳ありませんでした。この手紙は7月4日に検閲に出します。夏至も過ぎて日に日に暑くなってきました。雨は涼を呼びますが、その後が大変です。秋までの3ヶ月間頑張って行きます。
 大石クリニック院長はじめスタッフの皆様ご健康をお祈りしています。乱筆・乱文等お許し下さい。

 鈴木達也様
            平成25年6月28日  O

Date: 2013/07/11/22:55:50 No.944

Re:収監者との文通

Oさんへの返書

O (オー)様
前略
  6月28日付・7月4日提出のお手紙、7月9日に届きました。有り難うございます。ご自身の病気・性依存症に正面から向き合い、治療に向かおうとされている姿に本当に心うたれる思いで拝読しました。特に、私の稚拙な文面を一字一句もらさずノートに書き写されたとは !! Oさんの依存症治療と更生に向けた思いに本当に頭が下がる思いがしました。
 
  本題に入る前に、当院との文通、及びそのネット公開に御理解・御快諾を頂き有り難うございます。早速ですが、前回+今回の往復書簡(計4通)を当院ホームページ掲示板に匿名公開をさせて頂きました。別紙にて今回の往復書簡の公開文面を同封しますので、どうぞご覧下さい。ご自身の文面でも、同じ病気に苦しみつつ回復の道を模索している多くの人々の心に訴えかけているとの前提で読まれると、また違った思いや味わいがあると思います。今後この文通公開を通して、Oさんの一歩一歩の前進の姿が全国の同じ病気の患者さんや家族の方々に大きな勇気と希望を提供することでしょう。

  さて、本題に入りたいと思います。先ずは、性犯罪者の出所後の「再犯率が60%=非再犯率が40%」との話ですが、この非再犯率には最初から枠があるものではありません。学校や企業の入学・入社試験の場合には最初から定員という合格者の数・枠が定まっていますので志願者や求職者がその枠を超えていれば必然的と言うか運命的に不合格者が出ざるを得ません。しかし依存症の治療を志す患者さんの場合には、途中で治療を放棄しない限り10人中10人、100人中100人、つまり100%の人達が回復できると私は確信しています。私も、アルコール治療を開始してから患者・相談員時代(9年+9年=18年)を通して、この間に治療を継続した人で回復できなかった人を一人として見た事がありません。何度かのスリップ(再飲酒、薬物再使用、再ギャンブル、再犯・・・等々)があっても、治療に復帰して、たとえ「七転び八起き」でも治療を継続する限り、最後には必ず回復の道を歩めるのがこの病気だと私は確信しています。
 次に、「私は何をどのようにすれば良いのでしょうか?」とのお尋ねですが、前回の手紙で書いた治療の柱の③:患者ミーテイングも治療において重要な役割を果たします。それはOさん自身が刑務所の分類時に同犯者との触れ合いで感じられた通りです。この文通はそのミーテイングの文通版ですので、私も一人の依存症患者の立場で自分自身の体験談を手紙に書いて行きたいと思います。又Oさんの体験談も書き送っていただければ、お互いに依存の対象は違っても依存症患者としての共通体験に共感できる事も多々あると思います。そこから治療と回復への希望や確信も自然と湧き出て来ることでしょう。
 ただ、ミーテイングの文通版と一口に言っても、初めのうちは何をどう書けば?と戸惑われるのも当然だと思いますので、先ずは参考までに手紙を書く上でのテーマをいくつか提起したいと思います。
=文通テーマ例=
・「問題行動/犯罪の引き金」  ・「治療の切っ掛け」・「後悔と反省の違い」  ・「迷惑をかけた人達」   ・「償い」 ・「過去の自分と今の自分」 
・「再発・犯罪への落とし穴」  ・「仲間の絆」 
・「気分転換」 ・「一番大事な人・物・事」 
・「自信と油断」  ・「誘惑・病的欲求との闘い」
・「更生して出来る事」 ・・・その他
あくまでも参考ですので、これにこだわらなくて結構です。過去から今日に至る自分と向き合いながら書いた文面を新しい生活、新しい自分づくりへの道を歩む糧として下さい。 
              ↓下へ続く↓

Date: 2013/07/11/23:16:43 No.946

Re:収監者との文通

Oさんへの返書 つづき

 性障害(WHO正式病名:「性嗜好障害」=通称:「性依存症」) の治療にどのくらいの時間がかかるのか?とのお尋ねですが、これには個人差もあり、一言では言えないのですが、専門治療の期間は大雑把に言えば2年くらいでしょうか。ただ、2年で完治するという意味ではなく、治療によって依存対象から離れて生きる力を身につけられるまでの期間という意味です。治療をしても病気の根っこと言うか、依存の体質そのものは生涯にわたって完治することはありません。専門治療は例えば飛行機の滑走に例えることができます。飛行機が滑走によって離陸と飛行の為の揚力を得る事が出来るように、性依存症者は専門治療によって依存から離れ普通の生活が可能となります。しかし飛行機が失速すると墜落してしまうように、依存症者も油断して病気を忘れると依存を再発させ、いつか歩いた依存地獄の道へと逆戻りしてしまいます。その意味では生涯治癒の無い病気と言えます。その意味では私も今なおアルコール依存症患者です。しかし、だからと言って人生を悲観したり絶望するには及びません。治癒はなくても回復は可能ですので、その回復を楽しみ続けることで回復を継続する事が出来、それによって「依存症になって良かった」とさえ思うことが出来るからです。その喜びが依存地獄に墜落しない揚力となります。

 ダルクで言われている「今日を我慢する」は、薬物依存症の治療のみならず、酒、ギャンブル、性・・・等々の全ての依存症
治療での合言葉、と言うかスローガンになっています。要は、今日一日だけ酒を飲まなければ良いし、今日一日だけ性的問題行動や犯罪に走らなければ良いわけです。「これから一生、我慢しなければならないのか !! 」と思うと気が重くなるので、「今日一日だけ我慢すれば良いのだ !!」 と目標期間を小さく小さく区切ることで気持ちを楽にできるわけです。明日になれば明日が今日になり、明後日になれば明後日が今日になり、・・・で「今日一日」を積み上げて行くというのがこのスローガンで、長期回復者の殆どがこの考え方で断酒(薬・ギャンブル・・・)や再犯防止を続けており、その有効性を事実で証明しています。

 世界で研究されている依存症についてや、私自身の体験談等も書きたかったのですが、長くなりますので、それは次回以降にして今日はこの辺で失礼します。全国的に35度を超える猛暑と言うか、酷暑が続き熱中症による死者まで出ておりますので、お身体には重々気をつけてお過ごし下さい。
      
                      草々
       平成25年7月12日
         大石クリニック相談員 鈴木達也
                                                    

Date: 2013/07/11/23:20:11 No.947