収監者との文通 Aさんからの手紙
収監者との文通
Aさんからの手紙
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前略
鈴木さん、お手紙遅くなり申し訳ありません。鈴木さんのお手紙は5月15日と16日に届きました。同封されていた新しいワークブックは検査などで一週間近く経ってから私の手元に届きました。ワークブックに付いていたクリアファイルみたいな物ですが、使用が許されず、また領置も出来ず、廃棄になってしまいました。済みません。それと、ワークブックへの書き込みもできないので、今は読むだけ、そして頭の中で考えるだけになっています。まだノートが買えないので、しばらくはこの状態で続けて行きます。
さて、新しいワークブックですが、軽くですが一度全部読みました。これもなかなかの強敵だなと思いました(笑)。今日は矯正指導日なので、まずはセッション1をじっくり読みました。
P7のチェックリストですが、過去に一度も考えた事、実行した事の無いものばかりでした。今思えば前のワークブックで考えた事のある項目もありますが、それ以前には考えた事のないものばかりでした。ですが、ワークブックにもチェックがつかなくてもがっかりすることはありませんとと書いてあったので、焦らずじっくりと勉強して行きます。
P8の質問ですが、簡単に出来そうな行動では、相手との付き合いをやめる、毎日運動する、自分の思考・感情・行動について正直に話をするの三つは出来そうです。逆に難しいのは、自分の認知の癖を修正する。自分の問題行動に関連した行動を見極める。うつや怒りに効果的に対処するの三つです。
P8の最後の質問ですが、克服する為に自分でやろうとした行動は大石クリニックを知るまでは特に何もして来なかったです。そのせいもあるのか、自分がバカラの依存症になっているなんて考えた事も、思った事もなかったです。やめようと思えばいつでもやめられれると思っていましたが、実際にはやめられず、バカラをやりたいが為に犯罪までするようになってしまいました。こんな事を繰り返しながら、現在6度目の受刑生活を送っています。今回のワークブックを機に受刑生活とおさらば出来たらと思います。
話は戻りますが、自分自身を見つめ直す作業というのがどうも苦手なような気がします。例えば自分の認知の癖を修正すると言っても、何が認知の癖なのか不明ですし、問題行動に関連した行動を見極めるというのも、何が問題行動だったのか、いまひとつピンと来ないのです。鈴木さんとの手紙のやり取りで見えて来ているとは思うのですが、きちんと理解しているとは言えない状況です。前回の鈴木さんのお手紙で、鈴木さん自身の認知の癖、歪み、修正が書かれており「あ~、なるほど」と思うのですが、いざ自分自身について考えると、思いつかないのです。
以前の手紙で、ギャンブルをしたくなる時の気持ちとして「お金を増やしたい」、「楽しみたい」、などと書きました。こう思っていたのは事実です。ですが、毎日の様に通っていたので、毎日同じような事を思っていたかな?と自分自身でも分からなくなってしまうのです。
これからはワークブックのセッションを進めて行くのと同時に、認知行動についても考えて行こうと思います。
ワークブックのP12ですが、これは考える事が出来ました。強いて言うなら、余暇活動の将来の目標が思い浮かばなかったです。それ以外は頭の中に描く事が出来ました。余暇活動についてはこれからじっくり考えて行こうと思います。こんな形でセッション1は終了しました。来月の矯正指導日にはセッション2を実施したいと思います。これからも御指導よろしくお願いします。
こちらも大分暑くなって来ました。横浜も暑いと思います。日射病などに気をつけてお身体を御自愛下さい。では失礼します。
草々
平成25年6月14日 A
追伸
(前回の私の手紙での質問への答えです:鈴木)
メタボの件ですが、お腹を凹ます運動は、先ず足を肩幅に開いて立ち、お腹を凹まして両こぶしを自分の胸の前にもって来ます。ファイテイングポーズをとる感じです。こぶしは胸から約20cm離します。この状態で上半身をやや後に反らします。本当に少しです。そこから上半身のみ左右に捻ります。注意点はお腹を凹ますところです。これを一日3回(朝・昼・晩)で一回5分位を続ければお腹は凹んで来ます。少し凹んで来たかなと思ったら、足上げ腹筋をプラスすると効果的です。捻るだけなのでそんなに辛くなく続けられると思います。是非やってみて下さい。
それと、手紙の件ですが、(「刑務所からの手紙がいつも5~6通まとまって届くのは何故?」への答え:鈴木)、全国の刑務所に矯正指導日というのがあります。曜日は施設によって違いますが、第2・4金曜日が多いような気がします。そして手紙の発信日は月・火曜日が多いので、皆さん矯正指導日の金曜日に書いて、翌週の月曜日に提出しているのだと思います。そのため、まとめて大石クリニックに届くのではと思います。
Date: 2013/07/05/23:18:00 No.934
Re:収監者との文通
Aさんへの返書
前略
Aさん、こんにちは。お手紙6月29日に届きました。今回もAさんの手紙を含めて5通まとめて、ツアー?(笑)での到着でした。でもAさんの手紙のお陰で、その謎の答えが確認できました。やっぱりそうだったんですね。多分、各地の刑務所での発信日がほぼ共通しているのだろうなとは思っていたのですが、Aさんの手紙でそれが確認できたので、あまり焦らず、落ち着いて返事を書けます。この先10日~2週間くらいは手紙が来ませんからね。
それと、メタボ退治についてのご教示も有り難うございます。早速、自宅の畳の上で実行してみました。一日3回/各5分くらいとの事ですが、やってみると、その5分がえらく長く感じました。時間に追われて忙しい時の5分はアッと言う間に過ぎてしまうのに何故?と思いながら、何とかかんとか、腹を凹ませて腰を捻り続けたのですが、終わってみて、なるほどこれだけ長時間?やればお腹の凸も凹になるかも知れないなと希望を持てたような感じがしました。続けたいと思います。
さて、本題ですが、新しいワークブックも「強敵」?と言いながらも意欲的に取り組み始めたようで、やっぱりAさんだなと感じています。書き込みが出来ないのは残念ですが時間はたっぷりあるので、読み・考えるだけでも意義があると思います。
P7のチェックリストについて、過去に一度も考えたり行動したりした事が無い項目ばかりと書かれています。それはつまり、バカラや窃盗に走らない為の行動を全くしていなかったという意味になりますよね。病気にかかっているのに、それに気づかずに薬を飲んだことが一度もなかったというのと同じことですよね。だとすると、病気が治らないのは当り前の話で、Aさんが今6度目の刑務所に居るのもある意味で必然的な流れだったと言えるでしょう。その事を逆に考えれば、ギャンブル(バカラ)依存症・盗癖の治療を本格的にきちんと継続する事で、警察や刑務所との縁を切った生活が可能になるとの希望の道が見えて来ると言えるでしょう。
お手紙で「何が自分の認知の癖なのか分からない」と書かれていますが、それは多分、何故毎日のようにバカラに通ったのかの理由が今一つ分からない、バカラ欲求だけでほぼ自動的に足がバカラ場に向かっていたので、バカラをやった原因としての「認知の癖」を今一つ掴み切れないという意味なのだと思います。そこで、「認知の癖」を把握する為には、先ずバカラ欲求の中身としての頭と心、体の自動的な動きにメスを入れる必要があります。欲求の中身として、例えば「バカラに行けば一晩で数十万、数百万、儲けられる」という思いがあると思います。確かに「負けて懐を丸裸にされてしまうかも知れない」という理性の声というか「つぶやき」も頭の片隅にはあるとは思うのですが、それは依存症による病的欲求・衝動によって視野からかき消されてしまうわけです。その結果としての「バカラで儲けられる」という「認知の癖」が一人歩きと言うか、一人突進してしまい、それは病気ですから意志や理性の力では抑制できないわけです。Aさんのその時の思いは、バカラを酒に置き換えてみると私にもよく分かります。
そこで、その「認知の癖」を修正する必要が生じるわけです。どう修正するか?と言えば、例えば、
①「バカラに行けば一晩で数十万、数百万、儲けられる」
↓
②「確かにバカラで大もうけ出来る場合もあるけど、それに釣られてバカラを続けていると大負けすることもあり、それが原因で窃盗に走り、何年もの刑務所暮らしになる」
というのも修正の一例だと思います。そして最も大事な事、それは、この認知の修正を毎日、毎日繰り返すことです。自分では②はもう分かった、分かり切った事だと思っても、依存症によって頭に刻み込まれた①の「旧い認知の癖・歪み」は、一朝一夕に一度の修正だけで、消滅するものではありません。だからこそ依存症は、昭和30年代の古い歌:スーダラ節で 「チョイト一杯のつもりで飲んで・・・わかっちゃいるけど、止められない♪スーイ スイスイ スーダラダッダ・・・♪」と唄われたように、依存を止められずに繰り返す病気なんですね。酒が体に悪いと認知を修正したつもりでも、その修正を繰り返して心に根づかせていないので、どうしても酒の旨さという古い認知に勝てずにスーダラ節になってしまうわけです。ギャンブル(バカラ)や盗癖についても同様の事が言えるわけです。
日々の認知の修正は、例えて言えば、糖尿病患者にとってのインシュリン注射のようなものと言えるでしょう。一本のインシュリン注射で糖尿病が完治するなら、こんなに良い事はありません。しかし現実はといえば、インシュリンを必要とする糖尿病患者は毎日、毎日インシュリンを補給しなければなりません。それによって日々の健康を維持して仕事や日常生活を続けることが出来るわけです。昨日打ったインシュリンは昨日の血糖値を下げただけで役割を終えてしまうので、今日は今日のインシュリンが必要になるわけです。同じように、依存症者にとってのインシュリンは何かと言えば、日々の認知の修正であり、その為の仲間とのミーテイングだと言えるでしょう。仲間の共通体験が忘れていた自分の過去を思い出させてくれるわけです。それが無い未治療の依存症患者が「2度と同じ過ちを犯さない」と、どんなに深く心に誓っても、それだけではやはり同じ過ちを繰り返してしまうのはインシュリンならぬ、認知の修正=ミーテイングへの参加をしないからだと言って過言ではないでしょう。
ただ、Aさんの場合には仲間とのミーテイングには参加できない生活環境にありますので、当面はワークブックの学習と、この文通を続けて頂きたいと思います。
話が長くなりました。今日はこの辺で失礼したいと思いますが、今ネットでそちらの週間気温の予報をみたら、33度~35度という数字がズラリと並んでいました。横浜より2~3度暑いくらいです。水分補給も心がけて熱中症にならないようくれぐれも注意して下さい。
草々 平成25年7月6日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/07/05/23:50:15 No.935
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