収監者との文通 Aさんからの手紙
収監者との文通
Aさんからの手紙
前略
鈴木さん、連絡が遅れ申し訳ありません。
私の方は12月6日に○○に移送され、12月17日に○○刑務所に来ました。今後、何も無ければ出所までここで生活します。私の満期日ですが、平成28年6月3日です。こう日にちを書くと凄く長く感じますが、まだ始まったばかりなので当り前ですね。(笑) これから3年以上あります。今までの受刑生活みたいに勉強ができたらと思います。まだ工場に出るまで日にちが掛かるので、どんな資格を取得できるのか、又、官本でどんな勉強ができるのか分かりませんが、出来る限り勉強して行きます。
前回の○○では、勉強の官本はかなり充実していました。○○、○○では全くと言って良いほどに勉強の官本は無く、自分で購入していました。ここ○○も官本が充実していると良いのですが・・・。
勉強をしたい科目としては、簿記1級、ファイナシャル・プランナー、宅建などです。前刑の時に手紙で書きましたが、簿記1級、公認会計士、中小企業診断士、宅建、行政書士などを取得して独立したいのが私の目標で、それは今も変わりません。今回の刑務所で遠回りしてしまいますが、今後もこの目標に向かって頑張ろうと思います。
お手紙に同封されていた依存症のパンフレット有り難うございます。今は検査の為、私の手元に無いのですが、拘置所に居た時に2回程考えてみました。まだまだ難しく、一つの質問に対して一言しか思い浮かばないのです。手元に戻って来たら何度も試してみようと思います。次回の手紙にはそれを書いてみますので、評価の程よろしくお願いします。拘置所の時の官本で、前にも読んだ「拘置所のタンポポ」:近藤恒夫ダルク代表著があったので借りてまた読んでみました。
「Just for today」が実践できず、自分が情けないです。今度こそ、一日一日「Just for today」を忘れることなく、生活して行こうと強く決意しました。
それと、前回読んだ時にはそんなに気にならなかったのですが、なぜか今回読んでもの凄く気になった文書があります。それは、AA,NAの12ステップです。今回の受刑生活中にできる所はやってみようと思います。しかし、意味の分かり難い所もあり、一人でやるには少し分かり難いかもです。もし簡単に説明してある物などありましたら知りたいです。先ずは、生きて来た事の棚卸し表の作成、傷つけてしまった人の表などやってみようと思いますが、これすらも勝手が分からず難しそうですが、自分なりにやってみます。
今回の受刑生活でも、一日一日を無為に過ごす事なく、外に出て役に立つ様に、自分自身を鍛えて前に進んで行きます。一歩進んで何歩も後ろに下がってしまいましたが、ゆっくりでも後ろに戻ることなく、前に進んで行こうと思います。
ここに来るまでの二つの施設では、部屋に鏡が無く、ここでは鏡があったので久し振りに口の中を見たのですが、自分の歯を見てビックリ ! でした。歯と歯の間の歯グキが凄く進出していました。歯磨き粉はキチンとした物を使わないとダメですね。(笑)
年末になり忙しいと思います。風邪などひかぬようお身体を御自愛下さい。良い年をお迎え下さい。
草々
平成24年12月20日 A
↓返書
Date: 2012/12/30/18:32:31 No.849
Re:収監者との文通
Aさんへの返書
大石クリニックHPトップページ
及び 当掲示板No.555~Aさんとの文通 参照
A様
前略
12月20日付のお手紙、26日に届きました。返事を書くまでに数日が過ぎてしまいました。ごめんなさい。
お手紙を拝読し、Aさんの変わらぬ向学心の強さ、高さに改めて感服しています。簿記1級、行政書士、公認会計士・・・等々、人も羨む最高レベルの国家試験に挑戦しようというAさんの意志と言うか、気概に敬意を表します。そして、その夢を叶える根っことしてのギャンブルや盗癖などの依存症克服への強い意志もお手紙の文面から感じました。そこで、先ず、依存症者同士のミーテイングにどういう力があるのかから考えてみたいと思います。
例えば、依存症者Aさん~Jさん・10人の各個人の内部の、病気の力(×) 対 抵抗力(○)の力関係が以下の通りだとします。つまり、Aさんは病気の力が(×=8)に対して抵抗力は(○=2)しかありません。これでは依存欲求に勝てるわけがありませんね。横綱と幕下の勝負です。以下Bさん~Jさんも似たりよったりです。だからこそ依存症なんですけどね。
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Aさん:○○対×××××××× Bさん:○対×××××××××
Cさん:○対××××××××× Dさん:○対×××××××××
Eさん: ○○対×××××××× Fさん :○対×××××××××
Gさん:○対××××××××× Hさん:○○対××××××××
Iさん:○対××××××××× Jさん:○対×××××××××
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ところがです。この10人がミーテイングに集い、体験談の交流をすると、心の中にある種の化学変化が起こります。例えば、Aさんは、自分の(○=2)に加えて (他の9人の○の合計=11) を貰い、合計で (○=13) の力で自分の病気の力(×=8)に対決できるわけです。これで、病気・8対抵抗力・2の力関係で病気に負け続けていたAさんも病気に勝てるようになるわけです。他のBさん~Jさんまでの仲間達にも同様の事が言えるわけですね。
ずっと以前の手紙にも書いたかも知れませんが、こんなアンケート結果が報告されています。長年にわたって断酒を継続しているアルコール依存症者に 「貴方は自助グループに参加していますか?」と問うと、その90%以上が「YES」と答えたそうです。逆に言えば、自助グループのミーテイング(断酒会の場合は「例会」)に参加しないと断酒継続は不可能に近いくらい困難なのだと言えると思います。
つまり、ミーテイングや例会で心の中に上記の「化学変化」を起こさせることが最も確実な依存症克服の道だと言って過言ではないと思います。上記のアンケートはアルコール依存症者を対象としたものですが、断ギャンブルや断薬物を継続している依存症者を対象としても恐らく同様の結果が出ると思います。
一般では、依存は当人が意志を強く持てば止められると思われがちですが、それは依存症ではない健常者と混同した考え方であり、一度依存症にかかってしまった人には「意志」は通用せず、ミーテイングや例会での「心の化学変化」が不可欠なのだと思います。
ただ、Aさんの場合、これから3年+αの刑期中はGAや依存症専門病院のミーテイングには参加できませんので、先ずはやはり、この文通を続けて欲しいと思います。それと、最近では国の方針もあって、各刑務所でも再犯防止の為に外部の依存症関連のNPO団体や自助グループを招いて受刑者を対象としたミーテイングなどを行っているようです。最近、覚醒剤で受刑しながら大石とのこの文通を続けていた方が仮釈で出所しましたが、その方も刑務所内でのダルクのミーテイングに参加したそうですので、今の刑務所でそういう機会がありましたら是非参加されるようお奨めします。
AA12ステップの分かり易い資料を、とのことことですが、AAにならって結成された全日本断酒連盟(通称・断酒会)の「断酒の誓い」が12ステップを分かり易く要約したものなのでご紹介しておきます。こちらは6項目です。神様が出てこない分短いのかも知れません。
◎:私たちは酒に対して無力であり、自分ひとりの力だけではどうにもならなくなったことを認めます。
◎:私たちは断酒例会に出席し、自分を率直に語ります。
◎:私たちは酒害体験を掘り起こし、過去の過ちを素直に認めます。
◎:私たちは自分を改革する努力をし、新しい人生を創ります。
◎:私たちは家族はもとより、迷惑をかけた人たちに償いをします。
◎:私たちは断酒の歓びを、酒害に悩む人たちに伝えます。
以上ですが、12ステップと対比しながら読むと分かり易いかと思います。
話は変わりますが、先日のある受刑者の方からの手紙に、「ここ(刑務所)で、何か一つでも自信になるようなものを身につけたい」と書かれていたので、昨日書いた返事に 「刑務所内での独学で簿記3級・2級を取得した方が居ます」と書きました。Aさんの努力が他の文通仲間を励ましていますので、これからも宜しくお願いします。
今日は、とうとう今年最後の日・大晦日です。この手紙が届く時はもう新年を迎えているわけですが、とりあえず今日の時点で、どうぞお身体に気をつけて良いお年をお迎え下さい。
草々
平成24年大晦日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2012/12/30/19:18:40 No.850
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