収監者との文通 Bさんからの手紙

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収監者との文通

Bさんからの手紙

鈴木達也様
 
 返事が遅くなり申し訳ありません。
 鈴木さんの手紙を拝見させて頂き、気になる事がありますので質問させて頂きます。
 アルコール依存症から抜け出す為に1年半通院を続け断酒に成功したと思うのですが、今現在、普通にお酒を飲まれることがありますか? 又、お酒を飲まれていないとして、飲みたいと思う事はありますか? 是非、答えを聞かせて下さい。

 私は社会に出て、どのような生活になるのかと不安な気持ちがありますが、鈴木さんの手紙を読ませて頂いて少し希望が見えた気がします。

 だいぶ暑くなってきましたので、お体に気をつけて下さい。             
             6月8日 B

Date: 2013/06/16/19:56:42 No.917

Re:収監者との文通

Bさんへの返書

B様
前略
 6月9日付のお手紙拝読しました。ありがとうございます。
 お尋ねの件ですが、依存症という病気の核心に迫る良い質問だと思いますので、少し詳しくお答えさせて頂きたいと思います。

<Q>:アルコール依存症から抜け出す為に1年半通院を続け断酒に成功したと思うのですが、今現在、普通にお酒を飲まれることがありますか? 
<A>:お答えの前に、まずは「断酒に成功した」というよりも「目下、断酒継続中」という方が正確だと思います。アルコール依存症は何年断酒をしても「回復すれども治癒のない病気」ですので、「断酒に成功した」と過去形で断言できるのは、生涯にわたって断酒を貫き棺おけに入った時だと私は思っています。現時点では私の棺おけは未だもう少し先(笑)のようなので「目下、断酒継続中」としておきます。
 さてお答えですが、今も書いたように、お酒は全く飲んでいません。アルコール依存症という病気は、脳の神経にお酒をコントロールして飲めないという障害が発生する病気です。そして一度発症してしまうと、治療によって5年・10年・20年・・・と断酒して、どんなに回復しても治癒することのない病気です。「断酒して20年過ぎた。いくらなんでも、もうそろそろ一杯ぐらいは良いだろう」と思って、その一杯を飲んでしまうと、眠っていた飲酒への欲求が目を覚まし、一杯だけのつもりが二杯、三杯と進み、翌日も又飲みたくなり・・・ということになり、やがては元の大酒飲みに戻ってしまうというのがアルコール依存症という病気なんです。元の飲み方に戻る速さは人によって差はありますが、最初の一杯に手をつけて、そのまま治療と断酒に戻らないと遅かれ早かれ元の大酒アル中に戻ってしまうのがこの病気なんですね。つまり、「普通の飲み方」がつづかず「大量飲酒」に戻ってしまうので、私もお酒を飲まない為の方法・行動を続けながら一杯・否・一滴の酒に手をつけない生活を続けています。治療と断酒で回復し普通の生活ができるようにはなりますが、一杯の酒が引き金となり元に戻ってしまうという意味で、アルコール依存症は生涯にわたって治癒の無い病気なので、人間らしく生き抜くためには「生涯断酒」しかないわけです。逆に言えば、「生涯断酒」を貫き、「回復」を継続すれば、結果的には治癒したのと同じ人生を送れるわけです。
 性依存症(WHOの正式病名=「性嗜好障害」)の場合も基本的に同様の事が言えますが、少量の飲酒も許されないアルコール依存症と違い、性依存症の場合には専門治療によって通常の夫婦間の性行為は可能となりますので、この点についてはどうぞご安心下さい。

<Q>:又、お酒を飲まれていないとして、飲みたいと思う事はありますか?
<A>:飲みたいと思う事は全くありません。不思議ですね。あれほど朝から晩まで飲まずにはいられず、約5年の間、毎日一升酒を飲んでいた私が、今ではコンビニのアルコール売り場の前に立っても気持ちは全く動揺しません。真夏の冷えたビールも、正月の樽酒も、贈答用の化粧箱に入った洋酒も・・・それらのアルコ-ル類の全てが私の目には前世紀の遺物以外の何物にも見えません。過去から現在への年月の流れの中で何故こういう変化が起きたのかと言えば、飲むに飲めない生活環境(専門病院や自助グループ)の中で自然と飲まない生活習慣が身につき、病気にかかっていた飲酒欲求神経がマヒしたからではないかなと思っています。ふつう「神経マヒ」なんて言ったら何かの病気のようなマイナスイメージが持たれますが、病気にかかった神経がマヒしたと考えれば逆にプラスイメージになりますよね。でも、この神経マヒを治す特効薬があります。(治すべきではありませんが) その薬はは何かと言えば、それは前の質問への答えの通り一杯の酒です。
 性依存症の場合にも、基本的に同様の事が言えます。性的問題行動や性犯罪による快楽が病みつきになってしまい、何度もそれを繰り返してしまうのが性依存症という病気です。但し合法薬物であるアルコールの摂取と違い、性犯罪の場合には逮捕や刑罰という国家権力による介入が待っています。 それによって性依存症の症状は強制的に止められます。しかし、その間にきちんとした治療が行われなければ、出所後に再び病的衝動に襲われ、遅かれ早かれ同じ犯罪を繰り返してしまう確率が高いわけですね。だからこそ国もその認識の下に、最近では刑務所内での各種依存症セミナーや、外部から依存症自助グループを招いての該当受刑者とのミーテイングなども行っているようなので、そういう機会がありましたらぜひ参加されるようお勧めします。同時にこの文通も継続され、出所後は大石に通院して仲間と共に性依存症の治療を受けられて、性依存症の神経をマヒさせられれば良いなと思います。

 以上、私の体験談も含めてお尋ねに答えましたが、出所後への不安にどう対応するかのヒントになりましたでしょうか? なおも疑問が残るようでしたら、次のお手紙で遠慮なくお尋ね下さい。
 まだ梅雨が続いているというのに、夏のような暑い日が続いていますので、熱中症などにも機をつけて、お体をご自愛下さい。今日はこの辺で失礼します。

                       草々
               
       平成25年6月17日
        大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/06/16/20:24:10 No.918