収監者との文通 Eさんからの手紙
収監者との文通
Eさんからの手紙
大石クリニックHPトップページ
及び 当掲示板No.555~Eさんとの文通 参照
<↑「記事検索」にてEさんとの文通を続けて読めます>
大石クリニック相談員 鈴木達也様
お手紙ありがとうございます。いつも、どんな答えが戻って来るのだろう?変な質問じゃなかっただろうか?と期待と不安の両方ですが、期待の方が勝って、ワクワクしながらお待ちしています。
まずフラッシュカードですが、机の上のメモ用紙等に気分転換のイメージを書いて、ミスをしたり不安になったり、少し焦り出した時に見て、心を落ち着かせられるようにしたいと思います。そして、社会に出て再犯しそうな状況になってしまった時に活用できるように、良いイメージを沢山考えたいと思います。
不安や焦りについてですが、本当は身を守る為の正常な機能だと知って驚きました。自分も「先取りの不安」にとらわれて何も出来なくなったり、失敗のイメージが抜けず、その通りの失敗をしてしまう事もありました。私に当てはまるのは「考え方の癖」、「全か無か」、「過度の一般化」、「マイナスフィルター」、「もし○○になったらどうしよう」などです。あと当てはまるとすれば、「否認」、「自意識過剰」、「強がり過ぎ」などがあると思います。なぜ、その方向に考えてしまうのかは、今までの経験や、その考え方の方が失敗した時の落ち込みが少なくて済むし、成功すれば喜びが大きくなるからです。ただ、自分の悪い所は失敗から学ばないか、学んだ事を忘れてしまい同じ失敗を繰り返してしまう事です。だから、今まで苦しめているイメージしかなくその考えに固執していたのだと思います。これは逆にメリットもあって「全か無か」で言うなら、ハッキリしていて思い違いをしないで済むし、正しい判断が出来るのではないかと思っています。でも、別の考え方ができるようになれば自分へのストレスも軽減され、引き金を引かずに済めば再犯の確率は低くなるのかも知れません。あとは、衝動的な感情に流されずに危険な場所や時間帯に近づかないようにすれば再犯の確率は更に低くなるかも知れません。これは自分の問題なので確実なものではありませんが、少しでも問題行動から遠ざかれるのではないかと思います。
また自分は「ネガテイブなセルフトーク」に取り込まれてしまい、ひどい時はふさぎこんでしまい、どうしようもなくなり、頭から離れなくなり、集中できず、失敗を連続させてしまいます。でも、「ポジテイブなセルフトーク」は気楽に出来そうな感じがあり、少しずつ実践し、気持ちを楽にして、ふさぎこまないところまで、自分を追い込まないようにしたいと思います。
図々しいお願いになると思いますが、可能であるなら、大石クリニックで使っているワークブックを差し入れてもらえませんでしょうか?そうなれば、次から「○ページから○ページを見て下さい」とのご指示で、楽になるのではないかと考えました。担当の先生も見てみたいと言っていたので、本当に可能ならで構いませんので、是非ご検討下さいますようお願い致します。
桜の時季も終わりに近づき、新緑の季節となりました。まもなくGWになりますが、外の世界がうらやましくなります。大型連休になると本当に悲しくなりますが、一日でも早く出られるように頑張ります。その為にも体調に気をつけていきます。
何かと油断しがちな時ですので身体にはお気をつけ下さい。お手紙お待ちしております。
4月14日 E
Date: 2013/04/26/19:13:05 No.897
Re:収監者との文通
Eさんへの返書
E様
前略
お手紙、25日に届きました。 私の下手な文面でもワクワクしながら待っていて頂いているそうで、有り難いやら、恐縮やらで、早く返事をと思いながら書き始めました。
先ずは、ご所望のワークブックですが、この手紙に同封して送りますので、どうぞお受け取り下さい。このワークブック(上・中・下巻3分冊)は大石クリニックの性依存症集団教育プログラムで使用している教材です。このプログラムは、週1回/90分×4ヶ月コースで実施されているのですが、参加者は講師(大学の心理学教授+当院スタッフ)による講義を聴きながらワークブックに各自の思いや課題を記入し、それを日々の生活で実践するという内容となっております。同時に参加者同士での日々のプログラム体験の交流も行いますので、講師だけではなく、同じ治療仲間の間でも学びあう事ができます。
このワークブックは、そういうプログラム教材ですので、刑務所内での独学という形態では一定の困難は伴うとは思いますが、それでも
、出所後の再犯防止へのそれなりの力になるでしょうし、また通院教育に向けての予習にもなると思います。もちろん私も微力ながらもこの文通を通して出来る限りのお手伝いをさせて頂きたいと思いますので、是非挑戦してみて下さい。
「フラッシュカード」についてもよくご理解頂けたようで、嬉しく思います。できれば、今からでも実行して出所後の日常生活への訓練が出来れば良いかなとも思います。名刺大のカードの表側に、「自由時間に何もする事がなく退屈を感じた時」とか、「人間関係が上手く行かず、心に憤懣が溜まっている時」・・・等々、外の世界だったらまた問題行動に走りかねない状況を記入して、その時どう気分転換をすれば良いのかをカードの裏に書き込んで、それをイザ ! その時に即実行できるようにしておくわけです。刑務所内で可能なら、その何枚かのカードをセットして常時ポケットに携帯して、いつでも使えるようにしておけば良いかなと思います。
お手紙では、「先取りの不安」についても触れながら、「不安や焦りが、本当は身を守る為の正常な機能だと知り驚きました」と書かれていますが、ワークブックの<中>/P51の4~5行目でも、「不安やうつは、何も異常な心理状態ではなく、それ自体は問題ではありません」と書かれています。ただ問題となるのは、不安が異常に進行し過ぎて日常生活や健康に悪影響を与えてしまう事なんですね。大事なのは不安に心を全面的に支配されずに、一つの警報と捉えて正しく活用する事だと思います。
私自身、酒で失業し、無一文となり、妻と別れて、実家の母に生活の全ての世話になりながら、アルコール依存症との診断を受け通院治療と断酒を開始した当時、「この先、俺はどうなってしまうのだろうか!?」と、正直、不安でした。でも、当時の私にはアル中治療の為の通院と自助グループ通い以外の何も出来ませんでした。そして、それが逆に良かったのだと今しみじみ感じ入っています。「今の俺には、この道を歩くことしか出来なiい。でも、この道を歩み続ければその内いつか、次の道が見えて来るだろう。オフクロ、迷惑をかけて申し訳ないけど、それまで待ってくれな !! 」と、良い意味で開き直れたからです。不安という警報が依存症治療の源泉となり、治療継続による希望が不安のそれ以上の増大を抑えてくれたのだと思います。そして、そんな私を支えてくれたのは、断酒を継続して実際に回復、自立への道を歩む仲間達の生の姿でした。そんな私に、実家での居候生活の「次の道」が見えて来たのは、断酒を始めて1年5ヶ月後でした。依存症という病気は、自分の生活の100%を自分で賄うという普通の力を人間から奪ってしまうけれども、治療によってその力を取り戻せるのもこの病気なのだと本当に実感しました。
Eさんも是非、学習(治療)を続ける中で、不安を希望に繋げて回復と更生、社会復帰への道を歩まれるよう期待しています。
3月並みの気温が数日続いた後、急に気温が上がって来て春本番の陽気となって、暑くもなく寒くもない過ごし易い昨日・今日ですが、体には重々気をつけて、春の日々をお過ごし下さい。今日はこの辺で失礼します。
平成25年4月27日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/04/26/19:40:26 No.898
-
前の記事
断酒6ヶ月の表彰を受けての体験談:「アルコール依存症を認めて」デイ大石通院 竹さん 2013.04.20
-
次の記事
「20年間を振り返って」 大石CL外来通院 ゾイ 2013.05.08