収監者との文通 Mさんからの手紙

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収監者との文通

Mさんからの手紙

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前略 
 お手紙10月15日に届きました。いつもありがとうございます。
 さて、先ずは良い報告からですが、炊場工場に来てから1年が過ぎ、私は今月から2類に昇類できました。私は自分の不注意で炊場に入って早々にケガをしてしまいましたが、何とか立て直し今日まで1年間を無事故で働くことができ、2類にもなれました。これも炊場の本・副2人の担当の先生方のお陰です。それと周りの人達にも助けられここまで来れました。
 気持ちを落ち着かせたり、凄く我慢したりしたこともありましたが、気持ちが切れることなく来れて良かったです。社会では仕事が好きで、打ち込み懸命に努力しましたが、でもその為に仕事仲間とよくぶつかることもありました。忙しい日々の中で頑張っていればいつか解かると思い、力の限り全力で動き回り汗をかき、朝早くから夜遅くまでというより次の日の朝まで働くのを繰り返して来ました。今までの経験で私の方がよく知っている、私の方が正解というか合っているのに何故?何故解からない!! みたいのがあって言い合いになる。手を抜かず一生懸命やればやる程ケンカに。頑張り過ぎに注意、正にそれである。ストレスが溜まり大爆発の時に事件を起こす。原因はそれだけではないが、振り返ると大きく影響している部分もある。
 鈴木さんが手紙で言っていた朝の車の運転手の件、以前は罵声を言うのが私だった。でも今は言われた方の気持ちも分かるようになった。何でそんな言い方するのか、もっと穏やかに言えないのか、そうすれば素直に謝れるのにと思う。でも半面で私は怒りが先立ち、言い方考えろよと言ってしまうかも知れない。
これが職場なら、引けないで言い合いになって罵声を言って口もききたくなくなる。次に何かあったら完膚なきまで打たいてやろうくらいまで思っていた、それではうまく行く筈がなくトラブル続きでとにかく疲れる。
 だから、私は少しづつ変え始めた。気持ちを切り替えて、柔らかく相手に話し本当にそれで良いのかいっしょに考えてみたりする。その中で私の悪かった所は真っ先に心から詫びる。又、違う場面でその相手を気に掛け言葉や態度でフォローしたり、私から話しかける事を心がけている。そうこうしているとその相手と前よりも良い関係になることもある。
 ほんの少しの歩み寄りでこんなにも違う風になるのかという程でビックリしてしまう時もあります。仲良くやっている方が自分もラクで幸せです。それに気づき、少しづつ少しづつ変えようとしています。周りも少しづつ私と接触する態度や見る目が変わり、私にとってとても良く変わってきている。そういう人間が私の周りに増え楽しい。まだまだの私ですが、日々が楽しいに変わってきているのはとても嬉しい。社会に復帰しても変わらず続けたいです。
 季節が変わり、段々と寒くなると思います。カゼなどひかないようにお身体に気をつけてお過ごしください。                     
草々

Date: 2013/11/10/22:13:17 No.1048

Re:収監者との文通

Mさんへの返書

M様
前略
 お手紙9日に届き、嬉しい文面を拝読させてさせて頂き、有り難うございます。
何よりも先ず、2類への昇類おめでとうございます。この1年Mさんが真面目に、安全に無事故で作業を続けてきた努力の賜物と言えるでしょう。
以前のお手紙で、特に夏場の暑い時期は集中力が鈍り、ミスや事故を起こし易いと書かれていましたが、今夏のあの猛暑を無事故でクリアして今回の昇類にゴールインされたわけですね。何故、それが出来たのか?作業の安全の為に、小さな事も含めてどんな努力をしたのか?を振り返り、それに基づいて今後への自信を持って頂ければと思います。 
何はともあれ昇類のお知らせは、この前の漢字検定合格に引き続く嬉しいお知らせでした。こうなると次はどんな良いニュースが?と、つい期待したくなるのですが、でも焦りや頑張り「過ぎ」は禁物なので今まで通り、一つ一つの目標に向けて一日一日コツコツと歩みを続けて頂ければと思います。
 
 2類昇類と同時に嬉しく思えたのは、自己改革に向けての努力について述べられている文面でした。「自分の気持ちを切り替えて人と柔らかく話し、問題を一緒に考えるという謙虚な姿勢によって相手の自分への態度も良くなり、それがまた自分の気持ちを和ませる」という良い循環に気づかれたのは素晴らしい事だと思います。社会に復帰しても変わらず続けたいとの事ですが、私も、人間関係を構築する為のこの好循環を忘れずに歩み続けて頂きたいと思います。
  
さて、話は変わりますが、以前のお手紙に書かれていた社会復帰後への不安はその後いかがでしょうか?今日は私が断酒を始めた頃の不安体験を少し書いてみたいと思います。
 以前にも書いたかも知れませんが、私はアル中教科書に書かれている通りに酒による没落街道をヒタ走り、18年前に仕事、家庭を失い、健康を害し、もう本当に治療(断酒)する以外に生きる道を失ってようやく、母に引っ張られるようにして大石クリニックに辿りつきました。そんな状態でしたから、この先の自分の人生はどうなってしまうのか?と、それこそ不安のカタマリでした。そもそも社会復帰そのものができるのか?もしかしたら、このまま一生実家で母の世話になって生活せざるを得ないのか?とさえ思い、不安に感じていました。
 しかし、この不安を比較的短期間に乗り越えることができました。それは、やはり専門クリニックや自助グループという断酒仲間の輪の中に身を置き、依存症に関する色々な情報を得られたからだと思います。もしそういう場所に繋がらず一人で部屋に引き篭もる生活をしていたら、この不安は解決されないままに延々とそれこそ何年も続いていたと思います。
 大石に通院を始めて間もない、ある日のアルコール自助グループ(AA)のミーテイングで「先取りの不安」というテーマが提起されました。そこでは、参加者達が先行きへの今の不安や悩み、それを克服した体験などを語りあいましたが、私はその中で、「不安を抱えているのは自分だけではなかったのだ」との気づきを得ながら、将来への不安を乗り越えた仲間の話から「そうか、今は酒を飲まない事だけを考えれば良いのだ、今不安に感じている将来の仕事や生活の事は依存症から回復して、それを考えられるようになってから考えれば良いのだ、『先行きの不安』が心のストレスとなって今日一日の断酒を潰してしまっては元も子もなくなってしまうのだ!!」という学びを貰うことができました。そして断酒開始から1年半で実家からの経済的自立が可能な仕事に就けたのですが、今振り返って、仲間からの学びが正解だったと確信しています。この先の5年、10年、20年・・の道をどう歩むか?を今考えても、悩んでも、今答えが出る筈がないと割り切って、夢を夢として持ちながら、その夢に向けて、先ずは、その時・その時の課題に集中して一歩一歩と歩んで行けば良いのだと思います。Mさんの将来の仕事や結婚などに向けても結局はその方が良い結果に繋がるのではないかと思います。
 専門病院とか、刑務所とかいった所には、その性格から人生における共通の問題や悩みを持った人々が集まり易い場所ですので、今のMさんの周囲にも、具体的な罪名や刑期は違っても今後の人生に向けての基本的に共通した問題意識をもった仲間が何人かはいるのではないでしょうか? そんな仲間との心の触れ合いや共感を大事にしながら、自分自身の人生行路へのヒントを得られれば良いなと思います。
 2類昇類へのお祝いを兼ねて、将来不安についての私の体験談を書かせて頂きましたが、多少なりとも参考になったでしょうか?

横浜も秋が深まりつつ、段々寒くなって来て、洋服箪笥からコートやジャンバーを引っ張り出す季節となって来ました。Mさんも体が頑健な方とお見受けしていますが、くれぐれも油断なくお身体を大切にしてお過ごしください。それでは今日はこれにて失礼します。
          
         草々
                                   平成25年11月11日(月)           大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/11/10/22:39:02 No.1049