収監者との文通 Aさんからの手紙
収監者との文通
Aさんからの手紙
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前略
鈴木さん、お手紙届きました。遅くなりましたが色々と有り難うごいざいます。
こちらは前回の手紙の時は猛暑でしたが、現在では25~29℃くらいです。日中の日の当たる場所ではちょうど良い気温に感じますが、風は冷たくなってきています。
さて、そろそろどこの刑務所でも運動会の季節になります。私は4人一組のリレーに参加します.
今回はセッション6をやりました。ページ数で言うとたったの6ページなのに、だいたい午前中いっばいを使ってしまいます。毎回書いていますが、なかなか思い浮かばないのです。
さて、P39の問題関連行動ですが、しばらくバカラに行ける環境ではなかったので、行動の変化など思い浮かばなかったのですが、窃盗を始めてしまった時点の前の行動変化は思いついたのでそちらを書きます。
まず、次の日が休みの時には夜更かしが増え、日中に歩いていても、ここの建物は簡単に侵入ができるなどの考えをしてしまいます。問題関連行動としての「言い訳」ですが、1回くらいなら見つからない~見つからなければ大丈夫、盗んでも、どうせ保険が下りるが主な思考です。「期待」は、お金が増えるだろうという考えです
P41の「期待」の分析ですが「期待」はバラで楽しめる、お金が増えるかな?「新たな対処」は、部屋で映画、筋トレ、資格勉強などです。
窃盗で考えると「引き金」は、お金が次の給料まで足りるか不安というのもあります。「期待」は、盗みに行けばお金が増えるかも?「新たな対処」は、上記のバカラと同じ対処に一つ追加して、夜中は出歩かずに家で体を動かして寝る。足りると自分に言い聞かすです。以上が「期待の分析」です。
P42の「感情のうっ積」ですが、退屈、カードを絞りたいという欲求不満が挙げられます。リラプス防止の為には、カウンセラーに電話する。友人に電話する。運動、自助グループに参加などが役立ちそうだと思いました。
セッション6はこんな感じになりました。なかなか難しいですが、自分なりに理解は出来たような気がしますが、まだまだ分からない所だらけです。
簿記1級の勉強も始めたのですが、手に入れた参考書が2級までは修了しているのを前提としている参考書なので少々というか、かなり苦戦しています。2級の内容はかなり忘れてしまっています。(笑)
そして1級は難しそうです。1度サラっと読んだのですが理解が難しい所が多かったです。1級は商業、会計、工業、原価計算と大きく4つに分類できます。今は商業を始めたのですが先は長いです。ですが負けずにやり続けて合格を目指します。前の刑務所なら簿記1級の参考書も豊富だし通信教育もあるしで、とても良かったのに・・・ここと来たら簿記関連の本は殆ど無いし、あんまり教育に力を入れていない様に思います。ここは試験が無いので出所後に合格できればと思います。
この手紙のやりとりも今は13人もいるのですか。凄いですね。その最初の一人が「私」というのは嬉しいのと恥ずかしい思いが交錯しています。一番最初の私がこれ以上道を外す訳には行かず、依存からの脱却をしなければという思いが強くなりました。手紙にもあったように、やり取りをしている仲間から力がもらえるのですね。私も他の仲間の友達に力を与えていけたらと思います。
長々と書きましたが、今回はこの辺で失礼させて頂きます。横浜も涼しいと言うよりも寒いと思う日もあるのではと思います。風邪など引かぬ様、お身体を御自愛ください。では失礼します。
草々
平成25年9月27日 A
追伸
鈴木さん、お腹は凹みましたか? 私は変わりません(泣)
Date: 2013/10/04/18:16:03 No.1003
Re:収監者との文通
Aさんへの返書
前略
Aさんこんにちは。9月27日付のお手紙、3日に届きました。
毎日の刑務作業とともに、ワークブックの学習に、簿記1級の勉強にと精を出し充実した日々を過ごされているようで私も嬉しく思っています。
ワークブックでは、今回はセッション6を学習されたそうですが、この項は問題行動や犯罪に走る引き金や言い訳を振り返り、その対処法を学ぶセッションで再犯防止の為にもその核になると言っても良いセッションです。「言い訳」を封じて対処法を実行しなければ依存が止まるわけがないですよね。
<私の体験談~①>
私自身も酒を飲んでいた頃はずいぶん色々と言い訳をしたものです。例えば、断酒を始める5か月ほど前に父が入院先の病院で亡くなったのですが。ベッドの枕元で去り逝く父を見送った時にも私の体内にはアルコールが流れていました。アル中になって、何が有ろうと無かろうと常に飲まずにいられなくなっていた私にとって、父の臨終という時でさえ、それが飲まない理由にならなかったわけです。だから病院に来る途中の自販機でワンカップをひっかけていました。そしたら臨終の部屋に居合わせた親戚の一人に「達ちゃん酒臭い」と言われました。私も父の危篤のベッドの脇でさすがにきまり悪く思い、通じないと分かっている嘘をつかざるを得ませんでした、「いや、酒なんか飲んでいませんよ」と。酒臭い息をはきながら「飲んでいません」と言い切ったわけです。依存症は否認の病気と言われますが、本当にそうなんですね。そして心の中では、「どうして、病院をこんな山の上に建てたんだ、足の悪い人、血圧の高い人、心臓の悪い人もたくさん来るだろうに・・・」と病院の立地を恨んでいました。つまり、病院の玄関先に至る300メートルくらいの坂道をチャリンコを押して登って来たから、その息切れが微妙に残っていて、それで肺の中からアルコールが漏れ出て来たんだと考えて、臭いの根本原因である飲酒行動を完全に棚上げしてしまったわけです。これでは、酒臭いと言った親戚の前でのきまり悪さも酒を止める動機にはなり得なかったわけです。ですから、今思うに、断酒の為には「言い訳」の裏にある真の理由を掴み、それを動機として断酒の方法・欲求への対処法を学び、それを実行しなければならないと思うわけです。
この最後の実行が大事ですね。もっと言えば実行の継続と言うべきでしょう。それが頭で学んだ断酒法を確信に変え、その確信が再度実行の継続を保証するという、この頭と行動の間での循環と言うかサイクルが断酒継続の基本になるのだと思います。
ただ、今のAさんの場合には、頭での学びを実社会での行動によって確認する事が出来ませんので、今行っているワークブック学習を無駄にしない為にも、手紙に書かれたご自身の問題関連行動や思考への振り返りや、対処法などを出所後に向けて頭にしっかり刻み込んでおいてほしいと思います。
簿記1級の参考書が難しそうだとの事ですが、それは1級だからと言うよりも最初だからではないかな?と思います。3級も2級もテキストを初めて目にした時には難しそうに思いませんでしたか?少しずつ、一歩一歩と勉強を進めて1級の内容に慣れて行くことだと思います。Aさんのことですから、きっと合格のゴールテープを切るまで粘り強く勉強を続けることでしょう。私も陰ながら応援を続けさせて頂きたいと思います。
<私の体験談~②>
以前にも話したと思いますが、私は高校3年の春に初めて一人でドイツ語に挑戦し始めたのですが、初めて入門書を開いた時には「何だ、この難しさは!!」と愕然としたものでした。例えば定冠詞、英語の「The」ですね。英語の場合には常に「the」で良いわけですが、ドイツ語では後につく名詞の性、数、格によって16種類に変化するわけです。これには思わず「ウーン!!」と唸り声をあげてしまいました。しかし、長い歴史の中で文学、哲学、芸術、科学、医学・・・の各分野でで小学生でも知っている幾多の天才を生み出してきた国の言語に挑戦して、そういう天才達の原書を読めたらどんなに素晴らしいことかとの思いが最初の「16種類」の壁を一気に飛び越えさせてくれました。英語で落ちこぼれていた私にそれを可能にさせたのはやはり「やってみたい」という意欲だったと思います。「意欲」は裏返せば「楽しさ」に繋がると思います。その楽しさによる継続があったから翌年春の大学入試をドイツ語でパスできたのだと今も確信しています。
そして今にしての思いはと言えば、良い意味でも悪い意味でもアル中先進国であるこの国のドイツ語メデイアに触れながらそれを自分自身の依存症治療や仕事に役立てている事に大きな喜びを感じています。学生時代には、まさかこういう形で今の勉強を生かせるとは思ってもいなかったのですが、人生行路って分からないものですね。
ですからAさんも、ワークブック、簿記1級の先行きに、「こうなれば良いな」という目標と希望、意欲を持って楽しく勉強を続けて頂ければと思います。
この手紙が着く頃には運動会も終わっていると思いますが、リレーの結果はいかがでしたか?次のお便りでの結果報告を楽しみにしながら、長くなりましたが今日はこれで失礼します。
草々
平成25年10月5日
大石クリニック相談員 鈴木達也
追伸
◎:お腹を凹ます運動:
大石のミーテイングの時の余談で患者さん達に運動法(実演入りで・笑)を紹介したりしているのですが、その割に自分は?と言えば、風呂上りの時に、時たま思い出したようにといった程度で、これでは凹む訳がないですよね。体重計の針は依然として同じ場所に釘付けのままといった感じです。依存症治療と同じで、継続的に粘り強くやらなければと分かってはいるのですが・・・いずれ、良い報告が出来ればと思うので今日から頑張ってみたいと思います。
Date: 2013/10/04/18:35:25 No.1004
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