収監者との文通 Aさんからの手紙

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収監者との文通

Aさんからの手紙

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および、当掲示板:投稿No.555参照

前略
 長い間、ご無沙汰いたして申し訳ありません。11月19日に簿記2級の試験があり。その為ラストスパートを掛けていた為、なかなか手紙を書けませんでした。本当にすいません。
 貴重な体験談ありがとうございました。ギャンブルに嵌り、その後の生活というのは大なり小なりパターンは一緒なのですね。借金→嘘をつく→会社を辞めるといった形になっている様に思います。そして自殺に走ってしまう人もいるというのは何とも悲しい事だと思います。そうならない為にも、もっと多くの人にギャンブル依存症という病気を知ってもらい、治療が出来る事を分かって欲しいと思います。
 私は今は刑務所に居るのでギャンブルは出来ませんが、外に戻ったら苦しむ事になると思います。ですが、バカラに行きたいという気持ちは、大石クリニックやGAで和らげて行こうと思います。前に貰った手紙にもあったと思うのですが、「あの人が止めているのだから私も」という思いがきっと持てると思うのです。また、本に載っていたのですが、心に響いた言葉がありました。それは、「Just for today」:「今日一日だけの事を考えて生きよう。過去を後悔するのではなく、その日、一日ずつを頑張って行こう」という言葉です。この二つはもの凄く私の心に何かをもたらせてくれました」苦しい時は、これらを思い出し一日一日をしっかり生きて行こうと思います。
 前の手紙で御指導頂いた、断バカラで生じる空白の時間の使い方ですが、より具体的に見えて来ました。先ず、公認会計士の資格を取りたいので、11月もしくは来年2月の簿記2級試験に合格して、私の出所は満期で来年の12月1日ですので、それ迄は中で1級の勉強を独学で続け、その後出所してからはスクールに通って平成24年6月には1級に合格、更に1年スクールに通い、平成25年には公認会計士の資格を取ろうと思っています。まずは最初の難関の2級合格を目指します。
 また、もう一つの目標もあり、それは、自分はパソコンが好きなので、今度は独学ではなくスクールできちんとWebやOfficeのソフトの資格を取ろうと思います。一応、オフイススペシャリストのエクセル2000の資格は持っているのですが、今はオフイスも2010になっており、かなり仕様が違っているので、しっかり覚えて仕事に役立てようと考えています。
 この様なきっちりとした目標を持てるようになったのも大石クリニックの方達のお蔭だと思います。私にこの様な機会を与えて下さり本当に感謝しています。私も一日も早く大石クリニックに通えるのを楽しみにしています。
 しかし私の帰住地は決まっておらず、現在はどうなるのか全く分からないのです。刑務所では帰る所の無い人の為に保護会という施設があるのですが、それも横浜、東京23区、八王子など断られており、今は栃木、新潟を申し込んでおり、どちらかが決まれば満期日の平成23年12月より早く出所が出来るのですが、満期日までの期間は保護会で過ごさないといけないので出所しても直ぐにそちらに行けるかどうかは不明です。保護会にも細かい規則があるので外泊などするのは少々難かしいかも知れません。
 ですが、満期で出所、又は満期が来て保護会を出ても必ず横浜か渋谷に部屋を借りて住む予定ですので、その時は何を優先しても大石クリニックに行きます。その時は本当によろしくお願いします。今の私の不安はこの様に帰るべき住居が無い、出所後の仕事などがありますが、外に出たら何とかなると思うようにしています。満期日が来たら刑務所からは外に出されてしまうのです・笑
 今回は私事が多くなりましたが、次回はまた私の過去の体験など書こうと思います。
 送られて来た体験談は共感できる部分が多かったです。ただ、内観療法とは具体的にどんな事をするのか知りたいです。私が過去の事を振り返り、その時はこう思っていたとか考えるのも内観の一つなのでしょうか。御指導頂けると助かります。また同じ様な体験談があれば送って貰えると非常に有り難いです。
 私との手紙のやりとりが切っ掛けとなり、収監者達との文通が始まるのは私にとっても非常に嬉しい事であります。本当に刑務所にもギャンブル依存症の人が多く、私と同じ様に犯罪を繰り返す人が多いのです。そんな人達の再犯防止になってくれればと思います。
 私も大石クリニックを知った事で明るい未来が描けるようになりました。今までは、そんな明るい未来は自分自身みえなかったので。
 これからも本当によろしくお願いします。鈴木さん、スタッフの皆様方、そして院長先生、本当に有り難うございます。11月19日以降になると思いますが、また手紙を書きます。
 仕事の方も大変だと思いますが、どうか体に気をつけて頑張って下さい。
では失礼します。
                 草々
                 
       平成22年10月17
           A

↓↓Aさんへの返書↓↓

Date: 2010/12/08/22:41:55 No.599

収監者との文通

Aさんとの文通

Aさんへの返書

A 様

前略
 ご無沙汰しております。10月17日付のお便りを頂いてからもう随分日数が過ぎてしまいました。ご返事が遅れて申し訳ありません。

 11月19日の簿記2級の試験いかがでしたか? 人生の新しい目標に向けて一歩一歩と歩んでおられる姿が目に浮かぶ思いがしています。簿記2級から1級へ、そして公認会計士へ、そして又パソコン資格へと、夢が大きく広がっているようですね。依存症という病気が持つエネルギーを、ギャンブルという破滅的な方向から、より建設的な方向へと180度転換されているように思います。
 依存症というと、一般的には意志が弱い人がかかる病気と思われがちですが本当は、一つの事に熱中し、集中的に行動を続けられる人、つまり本当は意志の強い人だと私は思います。決して皮肉などではなく本当にそう思います。以前からそう思っていたのですが、ある精神科の先生が講演で、やはり、皮肉でも冗談でもないと断りながら「依存症の方々は元来は意志の強い頑張り屋さんが多いのです」と仰っているのを聞いて、やっぱりそうだったんだなあと感じ入ったものでした。そして今のAさんを見て、「やっぱり、やっぱりそうなんだな」と又々確信を深めています。問題は、熱中する対象がギャンブルやアルコール、薬物、性・・などの破滅的なものになってしまうところにあると思います。その意味で、Aさんが従来から持っていたエネルギー、情熱の方向転換をされようとしているのは素晴らしい事だと思います。この方向転換した道を、お手紙で書かれていた「Just for today」の心で、一歩一歩、慌てず、急がず、何があっても希望を失わずに歩み続けて下さい。
 この「Just for today」という言葉ですが、意味的には依存症関連の自助グループでも重視されている言葉で、「今日一日」と表現されています。今日一日だけはギャンブルをやらない、酒を飲まない、薬を使わない・・・という意味です。明日になれば明日が今日となり、その明日から変じた今日も、しない、飲まない・・となり、それが断酒、断ギャンブル、断薬・・の継続につながるわけです。ただ、方向転換しても病気の名残で熱中し過ぎという弊害もあります。どんなに建設的な事でも、「~過ぎ」から疲労やストレスが生まれ、それが元の依存対象に引き込まれる原因ともなりかねませんので、頑張り過ぎにも注意する必要があるでしょう。その意味で「Just for today」=「一日一日、焦らず、確実に」は大事な心構えだと思います。

 お訊ねの「内観療法」ですが、一言で言えば、
自分の過去について
①身近な人からしてもらったこと
②して返したこと 
③迷惑をかけたこと
を思い起こす事で心のの治療をする精神療法のようです。何だか、簿記の貸借対照表の精神医療版のようですね。私も詳しくは勉強していないのでネットからの資料を同封しますのでお読みになってみて下さい。
 最近に至り、この従来からの内観療法に加えて、認知行動療法、動機づけ面接法、マトリックス療法、等々といった依存症への効果的な精神療法が次々に開発されており、私もついて行くのに四苦八苦といった状態なのですが、治療を受ける側から言えば、治療への強い意志さえあれば、回復への道が以前よりも一層広く開けつつあると言えるでしょう。

 私の勘違い:Aさんの満期が今年の12月とばかり思っていたのですが、時の流れの何処かで勘違いしていたようです。早くお会いしたいとの思いの為せる業だったようです。でも、あと1年アッと言う間に過ぎるだろうと 思い直しています。ほぼ1年前の今年の正月がついこの間のように思えますからね。

 また、いつもの様に往復文通を大石掲示板に公開しましたので同封します。

 今年ももう僅かとなりました。来年こそ出所の年で、良い年となるでしょう。そういう年に向けての年の瀬を体に気をつけて、風邪など引かぬようお過ごし下さい。
                                        草々
平成22年12月10日
大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2010/12/08/22:23:11 No.598