収監者との文通 Bさんからの手紙

NO IMAGE

Bさんからの手紙

収監者との文通

※大石クリニックHPトップページおよび
 当掲示板:投稿No.555、581、582 参照

鈴木さん、お手紙ありがとうございます。

 逮捕されて★ヶ月経ちました。
 何も自由が無く、先が見えない日々ですが、私が今まで多くの人を傷つけて、最低な事をしてしまったので自分の責任ですので、被害者の方への償いの気持ち、自分自身の事を考える毎日です。

 いきなりですが、自分の今までの事、将来の事を書きます。私の今までの二十※年間、ただ生きて来た気がします。夢も無く、やりたい事も無く、仕事に関しては、与えられた事をただやり、目標も無く、何事も中途半端に生きて来ました。
 今回の事を切っ掛けにと言っては失礼ですが、本気で自分を見つめて、考え、努力して生きようと思います。ある雑誌で「精神対話士」という職業を目にしました。孤独感や喪失感で苦しんでいる方の相談を受け、対話する事で相手の人の精神サポートをする仕事です。私は今まで何度か、カウンセラーの様な仕事をしたいと思った事があります。しかし、それはカウンセラーの様な仕事をしたいというだけで、真剣に成ろうと思った事はありません。というか、今まで何かやろう!! 絶対に成る!!という強い意志のようなものを持った事が無いです。
 頂いた手紙で「性犯罪で刑務所に入っても、それを動機に生まれ変わり、社会貢献が可能になる」と教えて頂きました。この言葉を読んで、将来私は、カウンセラー、精神対話士のような人を助ける仕事、自分の経験を活かせる仕事がしたい、しようと思いました。
 しかし、今の私のままでは絶対に出来ませんし、する資格は無いです。今までの人生、これからの人生をしっかり考え、大事にして、目標を持って生きて行けば、私にもこういう素晴らしい事が出来るでしょうか?
 多くの人を傷つけてしまい、犯罪を犯してしまった私が、こんなキレイ事を言う資格は無いように思います。被害者の方には本当に最低な事をしてしまい、辛い思いをさせてしまいました。
 家族にも辛い思いをさせ、裏切ってしまい、きっと一生信用してもらう事はできないと思いますが、刑務所生活でしっかりした人間に生まれ変われば、やりたい事をやって良いのでしょうか? 出所してからも、被害者の方には出来る限りの償いをします。家族にも恩返しをします。
 これからしっかり償い、反省し、自分自身を見つめ直します。目標を持ち、全力で生きて行きます。
                    平成22年11月9日 B

  ↓↓返書↓↓

Date: 2010/11/29/00:18:55 No.591

Bさんへの返書

収監者との文通

B様

拝啓
 お便り有り難うございます。お手紙を拝読し、ご自分の過去としっかり向き合いつつ、将来の生き方や人生行路を模索されている姿に感動を覚えています。
 以前からカウンセラーの様な仕事で人の役に立ちたいとの思いを心の何処かに抱きながら、その夢に向けてスタートする切っ掛けに巡り会えなかったようですね。でも今回の事件で、「このままでは駄目だ、どうすれば?」と考える機会を手にして、心の水面下で眠っていた「カウンセラーのような仕事への想い」が目覚め、浮上して来たように思います。そして、カウンセラーのような仕事として目についたのが雑誌に掲載されていた「精神対話士」だったようですね。
 私も「精神対話士」についてネットで調べて見ました。そしたら・・・

◎心のケアを必要とする人々に、薬の処方や精神療法といった医療行為を行うのではなく、暖かな対話を通して心の重みを軽くし、生きる希望を見い出すお手伝いをします・・・
◎人は抱えている悩みを誰かに聴いてもらうと、気持ちが軽くすっきりとします。「そうだったんだ。辛かったでしょう?」と共感してもらいながら話すことで、自の心をまっすぐに見つめられるようになり、心の整理ができ、問題解決につながることさえあります。
    = 財)メンタルケア協会ホームページより

との文言に出会いました。そして思いました。「これは依存症治療に最も有効とされ実践されているミーテイング(患者どうしの依存症体験談の交流)に一脈通じる話ではないか!!」との思いでした。ミーテイング会場で参加者達は夫々の共通した依存症体験談に共感しあい、「自分だけではなかったのだ!」との思いで心を軽くします。その事で自分の過去をありのままに見詰め、自分の非を認識し、素直な気持ちで治療と回復の道(依存対象との断絶の道)を歩めるようになります。そういう依存症治療と一脈相通じる原理を持つ精神対話士にも人々の心を癒す有効性を感じます。ミーテイングを専門職業化したのが精神対話士でしょうか? 
 いずれにせよ、ミーテイング会場での自分自身の依存症体験談が同じ病気の仲間の力になり逆に仲間からも力を貰えます。その意味では精神対話士になる前でも立派に社会貢献ができると言えるでしょう。もっと言えば、Bさんの手紙のホームページでの公開が既に多くの同病の仲間への貢献になっているとも言えるでしょう。お手紙の中で「・・刑務所生活でしっかりした人間に生まれ変われば、やりたい事をやって良いのでしょうか?」と書いておられますが、1回、1回の文通での読み書きと思考の中でBさんは既に一歩一歩生まれ変わり、社会貢献もお手紙のHP公開の形でやり始めていると思うのです。その意味でBさんは既に、やりたい事を少しずつやり始めているとも言えるでしょう。「・・やりたい事をやっても良いのでしょうか?」とのお尋ねですが、「今、既にその第一歩をやり始めている」というのが私の率直なお答えです。刑務所生活で何年後かに突然大きく生まれ変わるのではなく、今から毎日毎日、一日分ずつ生まれ変わり、何年後かに気がついたら自分でも驚くほど大きく変わっているというのが人間の変わり方だと思うのです。
 その意味で、これからもこの文通の一通・一通を大事にしながら、被害者への償いと、ご自身の更生への道を一日・一日、一歩・一歩と歩んで頂ければと思います。断酒中のアルコール依存症者の合言葉の一つに「ゆっくりやろう、でもやろう」というのがありますが、それは性依存症の治療にもそのまま当て嵌まると思います。焦って、慌てて、無理して急ぐと直ぐに転倒し失敗し、それを繰り返して自信を喪失するというパターンが非常に多いですね。逆に、時間がかかっても一日一日、着実に一歩一歩と歩めば確実に道が開けるのだと確信を持って頂ければと思います。
 取り留めのない長話になりそうなので、今日はこの辺で失礼します。
 これから、日一日と寒さが増して行きます。どうかお体をお大事に。
またのお便りを楽しみにお待ちしております。
                                         敬具

       平成22年11月29日
         大石クリニック 相談員 鈴木達也

追伸
 いつもの様に、頂いたお手紙とこの返書を大石クリニックHP掲示板:「あおいくまの部屋」にて公開致しましたので、公開画面のコピーを同封します。

Date: 2010/11/29/00:05:35 No.590