収監者との文通 Eさんからの手紙
収監者との文通
Eさんからの手紙
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大石クリニック相談員鈴木達也様
お手紙ありがとうございました。
私自身も本当は、この道(子供への性犯罪を断ち保育士を目指す道:鈴木)を進んで良いのだろうか?他の道もいくらでもあるのでは?と思いましたが、私は「これをやりたい」と思い込むと、それ以外の事が見えなくなり、頭から他の良い答えが考えられなくなってしまい、「これしかない」と決めつけてしまいます。本当に良いのかと正直悩んでいます。今回は関連する事が多いと思い、セッション6に挑戦してみました。
少年院から戻り、多くの夢を諦めて、何となく惰性で生きて、日常に流される日々を過ごす自由気ままなニート生活をしていました。仕事を始めてからも「楽しい事、面白い事はないか」、「欲求を満たしてくれるモノはないか」とつまらない時間を過ごし、ヤル気のない仕事でストレスを抱える毎日に嫌気が差していました。そしてイライラしている気分の時に未成年の時のイケナイ考えが頭をよぎり、子供に対する性加害を考えるようになりました。この頃から児童ポルノのDVDを時間をかけながら10数枚入手した為性加害の考えは一時的に消えたようになりました。そして、いつもよりストレスが残っていると感じた時に見てストレスを追い出し(一時的に忘れ)自身の安定を図っていました。それも2年位でだんだんと効果が薄れて行き、携帯での動画盗撮へと移って行きました。そして前と同じ状態になった時、映像では満足できなくなり「本物を見たい」と思うようになり、性加害を実行し、年に1回行える程度でした。
教育を受ける中で、一番悪いパターンを作ってしまっていた事と、段々とエスカレートして行った事が分かりました。そのパターンを繰り返さない事を重要な事として、エスカレートして行きそうな時に早目に気づいて対応させていき再犯を考えない・実行しない行動をとる事が必要であり、今まで頼っていた児童ポルノに代わるものを見つける事が再犯防止になるのではないかと考えました。(ただ長年染みついた習慣なので、現状では見合うものは考えつきません。今のままだとまた探して買ってしまうと思います)早目に見つけたいと思います。
セッション6の。リラプス(再発)の兆候としての問題関連行動は、「『楽しい事・面白い事は無いか』、『欲求を満たしてくれる事は無いか』とつまらない時間を過ごし、やる気のない仕事でストレスを抱える毎日に嫌気がさしていた」事、これが当てはまると思います。良き理解者以外の友人といても孤独を感じていた。付き合いが悪くなった等、普段から感じていましたが、事件前は一層強く出ていたと思います。
関連思考の「言い訳」は「病気だから触ってしまうのは仕方ない」、「子供なら抵抗され難いし、言う事を聞いてくれる」との考え方が当てはまり、「期待」はストレスの発散、欲求への渇望、嫌気からの逃避だったのではないかと思います。「感情のうっ積」は、イライラ(いつも強く残っている感じ)、性的な欲求不満(事件前は盗撮したい、触りたいと常に思っていた)が当てはまるかなと思います。 危険な感情のうっ積に気づいたら先ず、自分で運動してみたり、ノートに書き出したりしてみて自分の状態を知りたいと思います。それでも残っているようなら、友人、又はカウンセラーに電話してみたいと思います。本当に危ないと思ったら警視庁相談センター(#9110)に電話して、再犯のリスクを低くするようにしたいです。再犯防止の為には自分の感情や心の状態に早く気づく事が大事で、罪を犯す前に自分だけでなく周りに止めてもらう事も必要なんだなと思いました。
今回はいつもより長くなってしまって申し訳ありません。季節も変わり目となり、日中の暑さ、朝晩の寒さで体調を崩しやすい時期ですので十分お気をつけ下さい。私も油断しないようにしたいと思います。またお便りをお待ちしております。
9月8日 E
Date: 2013/09/16/10:02:46 No.980
Re:収監者との文通
Eさんへの返書
E様
前略
残暑が続く中、台風も来るといった天候ですが、いかがお過ごしでしょうか?
9月8日付のお手紙、12日に届き嬉しく拝読しました。何よりも先ず、ワークブック/セッション6の学習に再犯防止への着実な歩みを感じています。お手紙の中で学習の結論として「再犯防止の為には自分の感情や心の状態に早く気づく事が大事で、罪を犯す前に自分だけでなく周りに止めてもらう事も必要なんだなと思いました」と書かれていますが、これはEさんが以前には手にした事がなかった再犯防止の為の一つの方法=病気と闘う一つの武器を手にした事を意味しています。
さらに、お手紙では、心の危険な状態に気づいた時に「犯罪を実行しない行動が必要であり・・」と書かれています。そして、その行動として「児童ポルノに代わるもの」を見つけたいと書かれています。これは素晴らしい気づきだと思います。まだ治療につながっていない多くの依存症者が中々依存を止められない一番の原因がここにあると言って良いでしょう。例えば、未治療のアルコール依存症者の場合、「断酒とは酒を飲まない事なり」で思考が終わってしまうんですね。断酒をする為には「酒を飲まない代わりに何をする?」の「何」が大事なんです。この「何」が無いと、今まで飲んでいた時間に何もする事がなく、退屈で時間をもてあまし、その空白の時間に又ドボドボとアルコールが流れ込んで来てしまうわけです。性依存症の場合でも基本的には共通しており、頭の中に性的問題行動や性犯罪につながる思考や感情を再び侵入させない為に空白の時間を作らない事が大事なわけで、Eさんがそれに気づいたのは大きな一歩であり、前進だと思います。
ただ、児童ポルノに代わるものが何か、長年染みついた習慣に代わるものが何なのかは未だ分からないと書かれています。確かにその通りで、習慣を変えるというのは大変に困難な課題です。そして困難だからこそ治療=学習が必要なわけで、未治療の依存症者はやはりここで壁に突き当たり、まわれ右をして後戻りしてしまうわけです。そこで学習を続ける為に、一つ前のセッション、セッション5に戻ってみましょう。このセッションでは、心を危険な方向に漂流させない為の「いかりの綱」が課題として提起されています。船が風や潮流によって危険な海域に漂流しないように海底に「いかり」を下しますが、心という船を問題行動や犯罪の方向に漂流させない為の心につなぐ「いかりの綱」の大切さがこのセッション5でのべられており、その参考例がワークブックのP36に掲載されていますので、その中から自分にも出来そうな、又はやってみたいものを探してみるのも良いかなと思います。
こうして学習して、学んだ事を実践する道を歩み続ける限り、治療は前進します。その中で以前は不可能に思えた事も可能になってきます。そして謙虚に地道に一歩一歩と歩み続ける中で心の中に自信(油断ではない本当の自信)が湧いて来ます。保育士への夢を保留とされたそうですが、それは、そういう治療の前進の中で考えても良いのかなと思います。
依存症の治療には終わりがありません。例えば、アルコール依存症者としての私は横浜の断酒会に加入しているのですが、会の正式名称は「横浜断酒新生会」と言います。全国各地の断酒会の殆どが「○○断酒新生会」を名乗っています。それは会で酒を断つ事によって、ただ酒を飲まないだけではなく、飲んでいた頃には考えつかなかったような全く「新」しい人「生」が可能となるからです。因みに、横浜の断酒会では、会員が断酒期間を1年積み重ねるごとに表彰していますが、その表彰状の文章では、表彰会員がその断酒期間を通して「全く新しい世界へと解放された」として讃えています。
私自身の断酒人生を振り返り、また周囲の回復している多くの仲間を目にする時、この表彰状が言う「全く新しい世界への解放」との文言は決して表彰状の美辞麗句ではなく、真実である事を実感しています。Eさんも○年後の自分を思いながら、自分にとっての「全く新しい世界への解放」をイメージしてみませんか。
長くなりました。今日はこの辺で失礼します。夏から秋へと向かう季節の変わり目で、猛暑に慣れた体が初秋の風で調子を崩さないようにお互いに気をつけて過ごしましょう。
草々
平成25年9月16日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/09/16/10:48:39 No.981
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