収監者との文通 Mさんからの手紙

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収監者との文通

Mさんからの手紙

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前略
 お手紙9月18日に届きました。いつも有り難うございます。手紙の枚数や出せる曜日等の制限があり返信が遅くなりすみません。 
 先ず、勉強して良かったとの思いや、「好きこそものの上手なれ」の話は私も社会人になった時に経験させてもらい、気持ちはよく分かります。小学校~中学校の時は勉強なんて1回もやらず、遊んでばかりでした。かろうじて高校に入り、高校で少し勉強したら学年で上の方の順位に。(あまり頭の良い学校ではないが)
 たまたま社会人になった時、一流企業と言われるホテルに就職できました。そこでも勉強したら楽しくなり、その結果も目に見えるものになりました。なので引き続き無理しない程度でやり続けます。
 それと、依存症の人ってガンバリ屋さんが多いという、この言葉に助けられました。本当に救われました。ただ、これは私の胸の中に入れておき、表には出せないですね。言い訳になってしまいます。気持ちは十分わかります。私にとっては有り難い言葉でした。
 さて、こちらの生活ですが、工場に来てから約1年2ヶ月程たちました。1年過ぎたあたりから、周りの対応と言うか、接し方が変わって来て自分にとってとても良くなって来ました。以前は肩に力が入り、自分の事ばかり考え、自分の言いたい事ばかり言って、相手の事を受け入れず、何がいけない、何で分からない、何だよと常に腹を立ててていた。笑顔なく、雰囲気悪く、とっつきにくかったと思う。今は話し方を変え、一歩引いて考えたり、気持ちを押し付けたりしないで、出来るだけ笑顔で接している。
 そうこうしている内に自分の気持ちに少し余裕ができ、色々と考えながら話せるし、穏やかに過ごせている。困っていると助けてくれたりもしてくれるのでとても有り難いと思う。ここのところ、そういう事が多く、周りの雰囲気も良いので楽しい。まだまだ相手の立場でものを考える事ができないし、イヤな思いをさせてしまう事もある。
 それに、作業で最近私が副班長になってしまい、立場的に作業をしっかりと見て守らなければいけなくなり、どうしても注意指導しなければならない責任があるようになってしまった。大変だ。前なら、自分が言った事を相手が分からなかったり、言い訳をする人がいたら、あきらめたり、その人と断絶したり、怒ったりしていたが、今は皆で助け合って協力しあえるようにしている。なかなか上手く行かないこともありますが、共に頑張って行きたい。
 いろいろありますが、前よりも一歩、また一歩前に進めています。あせらず、このままの気持ちで地道に行きたいです。

 もうそろそろ季節の変わり目、お互いに身体に気をつけましょう。ではこの辺りで。  
                 草々

返書 執筆中

Date: 2013/10/09/23:34:38 No.1016

Re:収監者との文通

Mさんへの返書

M様
前略
お手紙、7日にとどきました。いつも有り難うございます。横浜はこの数日、なんだか季節が1ヶ月前に戻ったような感じで、昼間の最高気温が30度にも達するような日が続いています。もう10月なんだから早く秋らしくなって欲しいのですが、そちらの陽気はどんな感じでしょうか?
 
 まずは先日の朝の出来事から書きます。その朝は若干寝坊してしまい、いつもの通勤バスに乗り遅れそうだったので最寄りの駅まで自転車を飛ばしました。途中で交通量が少ない十字路を一つ渡り切った瞬間、十字路の左横から来た車に突然、ブーッ、ブッ、ブッ、ブーッ、ブー・・・!!っと、激しくクラクションを鳴らされてしまいました。その瞬間に初めて、赤信号を無視してしまったのだろうと気がつきました。そこから数メートル行った所でその車が横に止まるなり 「信号を守らなけりゃーダメじゃないかー!!」と運転手の怒声が飛んで来ました。信号に気が付かなかったのは確かにこちらのミスだったので 「あぁ、どうも済みませんでした」と一応は謝りましたが、頭には少々血が上る思いがしました。事故寸前の際どい状況だったらともかく、信号無視を目にしただけで頭が切れてのクラクションと言い、罵声と言い、そこまでやらなくても良いではないか、私がその運転手の立場だったら、言うとしてもせいぜい「危ないから信号は守って下さいね」と穏やかな一言で済ませただろうな、それなら言われた方ももっと素直な気持ちで謝れただろうなと思ったわけです。街頭での赤の他人どうしの出来事だったので後に引くものは何も無いのですが、これが職場での人間関係だったら、多少はシコリを残すのではないかと思い、感情のコントロールの大切さをその運転手から逆の形で教わった思いがしました。Mさんはこの街角での一幕をどう思いますか?

 さて、頂いたお手紙で「依存症の人は頑張り屋さんが多い」との話に共感を頂き、私も嬉しく思いました。これは私が以前から感じていた思いなのですが、ある時の断酒会の研修会で講師をされた精神科の先生が講義の中で全く同じ事を話されたのを耳にして、「あぁ、やっぱりそうなんだな、依存症患者としての私の主観的な身びいきによる思いではなかったのだな」と思い、「依存症患者は本来は意志の強い頑張り屋なんだ」との思いを強くしたわけです。
そして今、こうしてMさんとの文通を始めて早や1年余が過ぎましたが、これまでの文通を振り返りながら、Mさんもまた頑張り屋さんの例外ではないなとの感を強くしています。刑務所という場所に身を置きながらも決して自己嫌悪に陥ったり、自棄になることなく、自主学習ノートなども作り、使いながら、自分が変われば周囲も変わるとの思いで自己改革に努め、新しい人生に向けての努力を続けておられます。最近では作業で副班長になられたそうで、全体をまとめる為に作業場の人間関係全体に対しても冷静な目が求められるわけで、それもMさんの自己改革や人間形成に大きく寄与することでしょう。持ち前の頑張り精神で是非今の自己改革の道を歩み続けてください。
 但し、上記の先生もやはり仰っていましたが、頑張り過ぎには注意しましょうね。それがストレスを蓄積させて依存症への原因になるし、又せっかく治療を始めた人でもスリップや挫折の原因になるわけです。ですから、お手紙の末尾にも、「焦らず、このままの気持ちで地道にやって行きたい」と書かれていますが、そう、本当にそれで良いと思います。同じ事を、やはり依存症患者で一つの事を始めるとついつい走り過ぎてしまう私自身にも言い聞かせて自戒したいと思います。 

 大石ではインフルエンザの予防接種の申し込みが始まりました。もうそんな季節なんですね。この先気温もどんどん下がって行きますので、風邪など引かないよう、お身体には重々気をつけてお過ごし下さい。では、今日はこれにて失礼します。次のお便りを楽しみにお待ちしております。
                     草々
       
         平成25年10月10日(木)
          大石クリニック相談員 鈴木達也
  

Date: 2013/10/09/23:50:04 No.1017