収監者との文通 Eさんからの手紙

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収監者との文通

Eさんからの手紙

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大石クリニック相談員 鈴木達也様

お手紙ありがとうございました。
児童ポルノに代わるものとしての現実的な考え方として、映画、読書、テニス、料理、買い物、音楽、DVD鑑賞、アイドルのコンサートなどを考えています。金銭的余裕が出てきたらスポーツ観戦、キャンプ、猫を飼う、楽器演奏、温泉旅行、ドライブ、食べ歩きを付け加えようと思います。何より大切な事だと思うのは、長い間続けられる事と実現可能な事だと思います。そのためには仕事の収入にもよりますが、これらを用いて犯罪行動をしない事、犯罪を起こしてしまう気持ちにさせない事だと思います。そして自分の目標に向かえる仕事をしたいです。

近況報告と致しましては、10月7日にセルフマネージメントプランの発表があります。この手紙が届く頃には終わっていますが、保育士の資格を取得して将来児童養護施設を開設する方を発表したいと思います。一時不安になり別のプランを用意しましたが、「バッシングを気にしていたら何も出来なくなってしまう。気にせずに本当にやりたい事を自信を持って発表すれば良い」と仰って頂いたので、逃げずに発表して、資格取得を目指して一層力を入れて勉強したいと思います。ただ申し訳ないのですが、差し入れて頂いたワークブックはまだセルフマネージメントまで到っておりません。特に『信頼』の所で止まっていて、仕事上の信頼とプライベートの信頼は「別」と考えていて、仕事上信頼できるけどプライベート上の問題がある人もいれば、その逆もあり得るのでは?と考えスッキリしない感じがしております。おそらくその人との関係性が影響しているのかなと考えています。人間関係・仕事上の関係で重要と思うのですが、何か割り切れないなと感じています。
次は、2週間の期間限定ですが、六法全書を借りて必要な所の法律を抜粋して書き写していますが、あまりにも長い上、他の関連する法律も調べないといけないので大変ですが何回も借りて少しずつ写したいと思います。ただ法律だけを勉強してもダメなので他の分野も勉強したいのですが、必要な本のタイトルも分かりませんし、出版社も多いと思うのでどれが一番分かり易い本なのか分かりません。通信講座を行っている所で使われている教材が分かり易いかなと思い、以前借りた本に載っていた住所に手紙を出したところ戻ってきてしまい、手掛かりが無くなってしまいました。本格的な勉強が出来なくて少しくすぶっている感じに」なっています。
また漢字検定2級の勉強も重なってしまい教育、六法、漢検と毎日時間が足りなくてかなり大変になっていました。教育と六法は一応一段落するので漢検も力を入れてしっかり勉強して合格できるよう頑張って行きます。ただ忘れてしまっていたり、単純ミスをしたり、逆に理解していたり、間違いを見つけられなかったりと一筋縄では行かず苦労しています。あまり漢字を書く事はない時代ですし、携帯等で入力すれば変換済みになっているので覚える必要がなくなってきていますが、知っていれば他の人に優越感を得られるので心を安定させるのに一役買うと思っています。
いろいろ長々と失礼しましたが、それ程色々な事が一気に重なり慌ただしい日々を過ごしていますが、自分が招いた結果だと受け入れて一つ一つを着実にこなして行こうと思います。
朝晩、肌寒く感じる季節となりましたが、風邪をひかないよう注意してお過ごし下さい。私は若干風邪気味ですが早めに休むなどして、しっかり回復に努めたいと思います。お手紙お待ちしております。

 

10月6日  E

Date: 2013/10/13/14:40:54 No.1019

Re:収監者との文通

Eさんへの返書

E様
さて、毎日お忙しい日々のようですね。やはり保育士への勉強を続けたいとの由。以前の手紙にも書きましたが、Eさんの場合保育士への道と再犯防止の課題は表裏一体の関係にあるので、それを踏まえての堅い決意を前提にして、是非歩んで欲しい道だと私も思います。人間の決意というのは、それだけでは淡いものですが、それが実行に移される事で時間と共に固くなるものだと思います。決意は実行によって堅く固まり、それが次の実行を確実なものとします。決意と実行の関係は、言ってみれば、セメント・砂と水の関係だと言って良いでしょう。
その実行についてですが、依存症者というのは世間一般では意志の弱い人種のように見られがちです。しかし実際には逆で本来は意志の強い人達だと私は思っています。元々は意志が強いから色々な事で頑張れるんです。それは良いのですが、頑張り屋だから頑張り過ぎてしまって、それで疲れてストレスが蓄積して、そこからの逃げ道として依存に走り依存症になってしまうわけです。ですから、その意志の強さを依存症的行動ではなく、より建設的な方向に向けて、そして疲れないようにコントロールして発揮すれば良いわけですね。
私も患者~相談員の時代を通算して18年間依存症治療の場に身を置きながら、沢山の依存症で意志の強い頑張り屋さんをこの目にして来ました。そして今この文通を続けながら、再犯防止、保育士資格、漢字検定試験と三つのの勉強に一生懸命取り組んでいるEさんも頑張り屋さんの一人に加えています。ですから、それぞれの勉強を続ける事でより強くなる決意で更なる勉強を続けて欲しいと思います。但し、上にも書いたように勉強し過ぎて疲れないようにお願いしますね。

保育士を目指すセルフマネージメントプランの発表はいかがでしたか? 次のお手紙でその感想などを書いて頂ければと楽しみにしています。その発表に向けて担当の先生から、保育士を目指す事へのバッシングを恐れずに自信を持って発表するようにと励まされたとの事で、本当に良い先生に巡り合いましたね。これからも、その先生を心の支えとして勉強を続けて下さい。

お手紙で、人への「信頼」について書かれていますが、世の中に相矛盾する二つのことわざがあります。つまり、①:「わたる世間に鬼はいない」と言いながら他方で、②:「人を見たら泥棒と思え」とも言うんですよね。一体どちらが真実なのでしょうか?私が思うには、人間には①と②の両面の要素があるのだと思います。決して二重人格という意味ではなく、人は誰でも矛盾する二つの要素を抱えて生きており、だからこういう矛盾する二つの諺が併存しているのだと思います。お手紙で、相手を信用するか否かには「その人との関係性が影響しているのかな」と書かれていますが、私もそうだと思います。相手との関係性、つまり、その人見る位置や角度によってその人の①の面が見えたり、②の面が見えたりするのでしょうね。従って人間関係、人との付き合いを考える場合には、相手の①の面を見て信頼関係を築きつつ、②については、許容できる範囲は受容しつつ、その範囲を超える場合には友人としての、必要かつ可能な助言や意見はきちんと伝えるべきなのだと思います。

横浜では、10月ももう半ばだと言うのに、なんと、毎日30度を越すような夏の気温が続いています。天気予報では今日から涼しくなる筈なのに、マンションの屋上直下という我が家の温度計は34度 !!  まるっきり、真夏です。  童謡ではないけれど、
「あーきよ、来い♪、はーやく、来い♫」
と、口ずさみたくなるような陽気です。地球の温暖化とやらで、横浜のみならず全国的にも変な気候ですので、それに体調を狂わせられないよう気をつけてお過ご下さい。

草々

平成25年10月13日(日)
大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/10/13/15:20:39 No.1020