収監者との文通 Dさんとの文通
収監者との文通
Dさんとの文通
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および、当掲示板 No.555 参照
Dさんより大石クリニック宛の手紙
拝啓
突然お手紙を差し上げます。失礼をお許し下さい。
Dと申します。現在○○歳です。今年の5月11日で○○歳になります。性犯罪の犯罪を繰り返し、今回で6回目の逮捕となります。
過去2回刑務所に行き、昨年の12月29日に出所し、また犯罪を犯してしまいました。
昨年の服役中に母親を病気で亡くし、出所後月日が経つにつれ母親のいない人生に対し寂しさを感じ、生きて行く事が辛くなり、
また犯罪に手を出してしまいました。
しかし、世の中には家族の死を乗り越えて一生懸命生きている人、事件や事故によって家族を失った人、
地震などの災害により突然家族を失った人など、私よりももっと辛い思いで日々生きている人がいる事を犯罪に手を出す前に考える事が出来ていたらと今本当に後悔しています。私には、縁が切れてしまいましたが兄と姉が居ます。その兄と姉と父親で家族会議をし、兄が父親に俺らをとるのか、あいつをとるのかと言った時、父親は母の遺言(私を更生させて欲しいとの遺言)を守りたい為、兄を説得してくれると言ってくれました。そして
2人でその病気を治して行こうと言ってくれました。今まで真剣に考えた事は無かったのですが、人は本当に人に支えられ、助けられて生きている事を今強く感じています。父は私が犯罪を犯すたびに情状証人として法廷に立ってくれ、今回も面会に来てくれております。その父親をもう裏切りたくありません。今度こそ父親の思いを絶対に忘れないで生きて行きたいと思っております。父親は以前に心筋梗塞で倒れた事が有ります。あと何年生きることが出来るか分かりませんが父親の為に、残された人生を精一杯親孝行して行きたいと思います。
私は、初めて逮捕された時、2度と同じ過ちをしないと自分に何度も言い聞かせ、必ず社会復帰できると思っておりました。しかし、家族や周囲の人達に
迷惑をかけ続けているのに、同じ事を何度も繰り返してしまいました。その都度もう止めようと思っているのに自分の意志ではどうしてもコントロール出来ず、興奮や刺激を求めてしまい、冷静な判断ができなくなり、今まで家族や周囲の人達を巻き込んでしまいました。今度こそ父親を助け、親孝行して行きたいと思っております。この先、社会復帰した時、本当に自分が変わる事が出来るのか、凄く不安があります。また言葉だけで終わってしまうのではないかという恐さがあります。そこで今私がお世話になっている弁護士の先生から大石クリニック様を紹介して頂きました。差し入れして頂きました「依存症のすべてが分かる本」を読みました。失敗をしたり、周囲の人達に迷惑をかけているのに懲りることなく同じ事を何度も繰り返す事、もう止めようと思っているのに自分の意志ではどうにもコントロール出来ない事、冷静な判断が出来ず、思いついたらすぐに飛びついてしまう事などの依存症の特徴を読んで、自分も依存症なんだと思いました。この本の中で印象に残った言葉があります。その言葉とは「出所の時こそ病気が暴れだす絶好のチャンス(本当の自分にとってのピンチ)」という言葉です。刑務所で生活していた時、その生活の中で嫌な事があった時、絶対にこんな思いはしたくないと思っていた事でも、出所して自由の身となった時、その事を忘れてしまっていました。環境が変わり月日が経った時、辛かった事や人の思い、感謝の気持ちを忘れてしまっていたと思います。
私は今まで専門病院でカウンセリングなどの治療を受けた事がありませんが、安易な気持ちで受ける事は絶対にしたくありません。この病気を必ず克服したいと強く思っております。不安はありますが、収監者の手紙を拝読させて頂き、刑務所ときっぱり縁を切り、立派に更生されている患者さんがいる事を知って、私もその方達の様に変わる事が出来るのではないかと今思っております。また、私も刑務所に行った事がありますが、刑務所を体験した人の話や、病気を克服する為に現在闘っている人の話や、病気を克服した人の話をぜひ聞いてみたいです。
正直、不安はありますが、父親の為に、自分の為に、今まで苦しめてしまった人の為に、この病気を克服して行きたいと思います。
先生、お忙しいところ本当に申し訳ございませんが、この先も手紙を書かせて頂いてよろしいでしょうか。こんな私ですが、よろしくお願い致します。
敬具
Date: 2011/06/01/20:25:39 No.654
Re:収監者との文通
Dさんへの返書
D様
前略
はじめまして。
私、大石クリニックで相談員をしております鈴木達也と申します。仕事の一環として収監者の方々との文通も担当しております。以後よろしくお願いします。
さて、この度はお手紙を頂き有難うございます。書面を拝読し今のお気持ちがひしひしと胸に染み込む思いがしています。今、Dさんの心の中には3人のDさんがいるようにお見受けします。
◎一人目のD-Aさんは:「もう2度と犯罪を犯したくない、自分の為にも、一緒に病気を治そうと言って支えてくれる父親の為にも、傷ついた被害者の為にも、もう2度と・・・」と心底からそう思うDさんです。
◎二人目のD-Bさんは:一瞬の刺激と興奮、快楽を求めて走ってしまうDさんです。
◎三人目のD-Cさんは:A,B二人の自分を見つめ、この深い矛盾から何とか這い上がる為に性依存症(性嗜好障害)という自分の病気を治療して回復する事で社会復帰への道を歩もうというDさんです。
弁護士の先生のお力添えも得ながら、Dさんは今自分自身でD-Cさんの産声をあげさせたように思います。かつてD-Bさんが性犯罪を犯す度に、D-Aさんが「もう2度としない」と誓っていました。しかしD-Bさんの存在がその誓いを反古にして来ました。依存症者の心の中には殆どの場合、この矛盾するAさんとBさんがいます。そして、AさんとBさんの力関係を相撲に例えれば、依存症者の場合にはAさんが序の口で、Bさんが横綱なんですね。依存症という病気の為せる業とも言うべきでしょう。これでは相撲を取る前から勝負は目に見えていると言うべきでしょう。
しかし今日に至り、D-Cさんが誕生しました。D-Bさんに投げ飛ばされ、押し出されてばかりだったD-Aさんに強力な助っ人が現われたと言って良いと思います。たまたま奇しくも、今日5月11日はDさんの誕生日だそうで、心から二重の意味で「おめでとうございます」と言わせて下さい。普通の意味での誕生日と、D-Cさんの誕生への二重の意味でのお祝いの言葉としてお受け取り下さい。
今後に向けて、D-AさんとD-Cさんで固いスクラムを組んでD-Bさんに対抗して頂ければと思います。過去を思うと、塀の外に出た時に同じ過ちを繰り返すのではとの不安も有るとの事ですが、今度は今までと違いD-Cさんがいます。外に出る日に向けて、そのD-Cさんを大事にして下さい。D-Cさんの活動の場は、外に出るまではこの文通だと思います。文通を通して治療への動機を堅持して頂ければと思います。そして釈放、又は出所後は直ぐに大石クリニックにお越し頂き治療を始めて頂ければと思います。
既にお読みになっておられるようですが、当院では、収監者との文通を行い、それを本人の同意の下にホームページに匿名公開しております。その趣旨は同封の別紙・HP掲載文の通りですので、それをお読み頂いた上で、DさんもHP匿名公開にご同意頂ければ嬉しく思います。ご返事をお待ちしています。
最後になりますが、性依存症(嗜好障害)の治療について一言述べておきたいと思います。治療は主治医によるカウンセリングと、治療仲間の参加による学習や、依存症体験談の交流が主たる柱となっています。お手紙の中で「・・・人は本当に人に支えられ、助けられて生きている事を今強く感じております」と書かれています。この事は、同じ病気にかかりそこから抜け出そうと治療に励んでいる仲間とのミーテイングの中でも強く実感できると思います。仲間の体験談に耳を傾け、そこから自分の過去を思い起こし共感する中で、仲間どうしの絆を実感しつつ、仲間と共に病気を克服できるとの確信を得られるでしょう。仲間に支えられ、助けられながら生きつつ、同時に仲間の力となっている自分に気づかれる事でしょう。大石クリニックには、そんな性依存症(性嗜好障害)の仲間達が沢山通院しています。そんな仲間達がDさんの来院を待っています。その日まで、この文通を続けて頂ければと心から願いつつ、今日はこの辺で失礼します。
この先、蒸し暑い梅雨の日々に向かいますが、くれぐれも、お体をご自愛下さい。
草々
平成23年5月11日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2011/06/01/20:51:47 No.655
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