収監者との文通 Dさんからの手紙

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収監者との文通

Dさんからの手紙

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及び 当掲示板 No.555 N0.654 655 656 657 662 663 670 671 参照

前略
 大石先生、鈴木様、スタッフの皆様、こんにちは。○月○日に○○拘置所に移送となり、環境が変わりましたが、自分が置かれている立場を忘れる事なく社会復帰に向けて頑張って生活しております。
 今までは刑務所を出る事ばかり考えていました。一日一日をただ漠然と過ごしておりました。しかし出所するまでのこの期間が大切だったと思いました。出所した時、社会復帰した時、沢山の壁にぶつかる事があると思います。大切な人を失い、その悲しみを乗り越えて行かなくてはいけない日がいつかは来ると思います。私は昨年服役中に母親を亡くし、その悲しみを乗り越える事が出来ませんでした。そして母親のいない生活に寂しさを感じ、生きて行く事が辛くなり、自分が置かれている立場を忘れ、再び同じ過ちを犯してしまいました。しかし今度こそ壁にぶつかったり、辛い事や悲しい事を迎えた時、それを乗り越えられる強い心を持った人間になって行きたいと思います。大切な人がいなくなった時、その寂しさを二度と依存症の再発につなげない為にこの期間が大切である事を忘れず、認知行動療法の重要性を忘れず、自分を信じて生きて行きたいと思います。
 鈴木様、7月5日付のお手紙有難うございます。早速拝読させて頂きました。お手紙の中で認知行動療法の事が書かれていましたが、その文面を拝読させて頂いて不安を解消する事が出来ました。又、前回の手紙で依存性人格障害の事をお伺いさせて頂きましたが、早速頂いたお手紙に書かれていた診断基準を確認させて頂きました。八つの基準の内、⑤の「他人から愛情や支持を得るために、自分の不快な事でもやってしまう事がある」、⑥の「自分で自分の事が出来ないという強い恐怖や無力感を感じている」、⑧の「自分が世話をされずに放っておかれるという恐怖に非現実的なほど捕らわれている」、この三つがあてはまりました。五つ以上に該当がなく少し安心しました。不安はありますが、頂いたお手紙に「Dさんは今大石を知り、自分の病気を認め、治療と回復、社会復帰への決意を固められ、希望を胸に新たな人生への一歩を踏み出されました。自分の意志と決断でその一歩一歩を歩めるならば・・」と書かれていました。文面を信じ、頑張って行きたいと思います。
 私は今回も含め今まで、ある行為をする過程で得られる興奮や刺激を求め、その行為にのめり込んでしまい痴漢や盗撮をしてしまいました。家族だけでなく人様にも迷惑を掛け続けて来てしまいました。時々思うのですが、興奮や刺激を求めてその行為にのめり込んでしまう依存が私のように痴漢ではなく、ギャンブルや買物や仕事やインターネットやケイタイメールなどだったらと。両親に迷惑をかけてしまうかも知れないけど、他人様を傷つける事は無かったかも知れなかったのかなと考えた事があります。私は今まで興奮や刺激を求めて、その結果本当に沢山の人を裏切り続け、傷つけ、辛い思いをさせて来てしまいました。しかし今度は家族や人様に迷惑を掛けない趣味を見つけて行きたいと思います。思えばこれといった趣味はありませんでした。興奮や刺激を求める行動が家族や人様を傷つける事につながるものではなく、家族や人様を傷つける事なく、お金があまりかからず興奮や刺激を求められる趣味が必ずあると思います。その趣味を見つけて頑張って行きたいと思います。
 来年の3月頃社会復帰させて頂きますが、今は出所の事を考えず、一日一日を精一杯生き、やるべき事、やらなくてはいけない事をしっかり行い、日々後悔のないように生活して行きたいと思います。自分を信じ頑張って行きたいと思います。
 有難うございました。また手紙を書かせて頂きます。
 お身体を御自愛下さい。では失礼致します。
                   草々
         
           平成23年7月16日 D

Date: 2011/07/24/17:56:44 No.675

Re:収監者との文通

Dさんへの返書

D 様
前略
  お手紙、拝読しました。ありがとうございます。
 ご自分の過去から現在への経過、体験、そして今日の自分の立場をしっかり見据え、その認識の上に立ち今後の受刑生活を自己改革の一歩一歩にされようとしているお姿に敬意を表したいと思います。来年の春まで今のお気持ちを忘れずに歩み続けて頂きたいと思います。
 
 お手紙の中で、「刺激や興奮を求めて痴漢や盗撮にのめり込み、沢山の人達に迷惑をかけてしまった」と書かれ、更に「刺激や興奮を求める方法が痴漢や盗撮でなく、ギャンブルや仕事、買物、ネット、携帯メールなどだったら、家族は別として、こんなに多くの人々に迷惑を掛けなかったかも知れない」と書かれています。これは、もう痴漢や盗撮で多くの人に迷惑をかけたくないとの深い思いからの文面だと思います。ただ、上記のギャンブル、仕事、買物・・・という言葉はいずれも後に依存、依存症という言葉を付加できる言葉です。
 こんな話があります。あるアルコール依存症の患者さんが断酒を始めました。強烈な飲酒欲求に襲われても酒を飲めず我慢しなければならず、結局欲求のはけ口と時間の穴埋めをパチンコに向けました。その結果行き着く先はパチンコ依存症でした。サラ金数社に600万の借金を作り、親と親戚に頭を下げまくって返済してもらったそうです。借用書と「もう2度と・・」との誓約書を書いてです。
 酒もギャンブルもご法度となり、周囲の冷たい視線の中で生きざるを得なくなった彼が憂さ晴らしの為に次に目を向けたのは薬物でした。・・・そして薬物依存症に。そして薬代欲しさに手をつけたのが会社の金で、最後の行き先は刑務所でした。これはある個人の偶発的な出来事ではなく、クロスアデイクションと言われている依存症の病状経過の一つのパターンとされています。A依存からB依存へ、B依存からC依存、D依存へ・・・と渡り歩く中で、人間として生きる自信を失い、自己嫌悪に陥り、ウツを発症し、最後は自ら命を・・というパターンも珍しくありません。結局、依存症者が真に依存地獄から抜け出すためにはあらゆる依存対象の世界から脱出しなければならない事をクロスアデイクションの現実が教えていると言えるでしょう。

 では、どうすれば???
 実は、今回のDさんの手紙と同時に、もう一通受刑者の方からの手紙が届きました。その方とはもう3年以上前から文通をしており、もう間もなく仮釈放となります。ギャンブル(バカラ)依存を原因とする犯罪を繰り返し現在5度目の刑務所生活を送っている方で、名をAさんと言います。封筒に入っていた手紙には「簿記2級試験に合格しました」と書かれていました。刑務所の中で地道に勉強を続け、簿記3級に合格し、更に今回2級に挑戦し、仮釈を目前にした今「刑務所内で2級まで」との当初の目標を見事に達成しました。出所後は更に簿記1級から、将来は公認会計士までと夢を膨らませています。そのAさんも文通を始めた頃、刑務所に入る度に断絶を決意しながら止められず犯罪・逮捕の原因となって来たバカラをどうしたら本当に止められるのだろうか???と悩んでいました。そんなAさんが断バカラで生じる頭と心の空白を何で埋めたら良いのかと考え、出した結論が上記の、簿記3級⇒簿記2級⇒簿記1級⇒公認会計士への道を歩み続けるというものでした。自分を破滅の淵へと追いやって来たギャンブル(バカラ)から手を放し、空いた手で簿記資格~公認会計士への道を手繰り寄せる=破滅から建設の道への見事な転進と言うべきでしょう。バカラに捕まらない方法がそのまま人生再構築の方法になっています。一石二鳥とは正にこの事をいうのでしょうね。
 如何でしょう? 今後の人生を考えるヒントになるでしょうか? 受刑生活の期間が出所後に向けて大切な期間になるとお考えのDさんですから、刑務所内で出所後に繋がる何かを探し、新しい人生への切っ掛け作りをしてみてはいかがでしょうか?

 真夏の太陽が照り続ける暑い日々が続いています。くれぐれもお身体をお大事にお過ごし下さい。
                     草々

        平成23年7月25日
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2011/07/24/18:32:40 No.676