収監者との文通

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収監者との文通

Mさんからの手紙

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前略
 お手紙ありがとうございます。そして、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。つい書き急いでしまい、年末のごあいさつもロクに出来ずすいませんでした。
 さて、今回の手紙や前回の手紙を頂いて何回も読み、私の気持ちもかなり助けられました。考え方を少しだけ変えることで大きく気持ちが楽になり、心も穏やかになれる。前向きに考えられるとリラックスして表情も笑って過ごせ、皆も寄って来る。良い事ばかりではないか。
 今までは正義感が強く、その為に損する事も多く、それを変に悪くとり、またか、またかと悪い循環に入り、自己の主張が強くなり、顔が怒り、心も怒り、人を突き放してしまっていた。これでは周りりも寄って来ない。孤立するだけ。今後はできるだけ良い方へ変換できる力をつけたいと思う。
 あと、お手紙を読み、ぞっとした事があります。1年をアッと言う間と思うか思わないかとだけしか考えてこなかったのですが、それを「それなりの事が出来る長さを持った期間」と言われるとぞっとしました。確かに、社会に居ると色々とできます。とてももったいなくも思います。しかし、この中では学校や社会では教えてくれない事が学べます。また日常の生活動作だけではなく、自己分析し改善できることもあるし、勉強などもできる。ある意味、この期間をどれだけ大切に自分と向き合って、どこが悪く、どういう風にそれを認め、今後どうやって過ごして行くかを型にし変えて、それを維持し続けて行けるかと気付きを築き上げねばいけないと思う。 前回は分かっていなかった。正直、早く過ぎないかとか、刑務所に入った事をバレないようにとか、肩に力が入り過ぎて周りと仲良くできず、悪い方、悪い方へ考えて最後は開き直り逃げてばかりになってしまった。
 今、このそれなりの長さを持った大切な期間、前よりも確実に実になり、前進できてるいると思うが、足りない事もあるのでぞっとした。ただ、いつもより少しポジテイブに考えると、今まで考えて来れなかった事を学べたり、自分を見つめなおす事などが出来たし、また若干ではあるが我慢も出来るようになった。そのおかげか、周りに人が寄って来てくれて、私を助けてくれる人も増えてくれたのが心から嬉しく思う。
 この1年は今までと違う様になり、型に残った。今年も焦らず、大切、人として当たり前の事を当たり前のように出来るようにし続けて行こうと思う。この気持ちを維持したい。5年後、10年後も気持ち変わらずにいられるようにしたいし、そのころに笑って穏やかに過ごせるようにしたい。今年も精一杯生かせる様にします。
 最近の天候の異常さも気になりますが、これからの冬本番の寒さも気になります。どうか、くれぐれもお身体大切にして下さい。鈴木さんも私も、お互いに無事にまた1年過ごせますようにお願いします。
                      草々                                 

Date: 2014/01/13/17:28:45 No.1158

Re:収監者とのbんつう

Mさんへの返書

M様
前略

明けましておめでとうごじます。
心新たに新春をお迎えのことと思います。本年も宜しくお願い致します。

 さて、新年第一便のお手紙11日に届き、自己変革の道を一歩一歩と歩み続ける姿を嬉しく思いながら拝読しました。
 お手紙の中で『考え方を少しだけ変えることで、大きく気持ちが楽になる』と書かれていますが、それは素晴らしい気づきだと思います。世の中の出来事、物事、そして日常の人間関係の全てに表と裏、裏と表があり、立体的なものなので、それを見る角度を少しだけ変えるだけで、その姿、形が違って見えてくるのは当然の事だと思います。人間関係でも、よく「相手の立場に立って考えてみよう」と言われますが、それによって相手との間の問題が立体的に見えて来るし、更に第三者の視界からの見方を加える事で、その問題の全体像に近づけるのだと思います。問題の全体像を見ることによって自分の最初のの主観的な主張も、より客観的で正しい主張に近づけることが出来るようになると思います。

 過ぎてみれば短くも感じる1年という時間のそれなりの長さについての私の素朴に感じた思いが、ぞっとするような思いを感じさせてしまったようですね。以前よりも実となり前進できる時間の使い方をしているけれど、まだ足りない面もあるので貴重な時間を無駄づかいしているようでぞっとしたという意味でしょうか?Mさんが時間の一部を無駄づかいしているか否か私には分かりませんが、ただ1日/24時間の中には寝ている時間+ゆとりの時間もストレス防止の為に不可欠だという事も忘れないようにしたいものです。以前の手紙にも書きましたが、依存症者には頑張り屋さんが多く、ともすれば頑張り過ぎて疲労やストレスを溜め込み、それが色々な依存への逃避に繋がり易いので注意したいものですね。アルコール依存症の私も夜の時間に読書や書き物などをしていると、つい、それに熱中し過ぎて時間を忘れ、気がついたらもう午前零時を過ぎて日付けが変わっている場合が多いんです。それで最近では目覚まし時計を逆の使い方をしています。つまり、アラームをPm10:30にセットしそれを寝る時間にしているわけです。目覚まし時計は本来は朝の起床用に使う道具ですが、私の場合は逆で健康の為の就寝用に使っているわけです。

 お手紙の中で、以前の刑務所生活では出所後「刑務所に入った事をバレないように」との肩に力が入った思いがしていたと書かれています。しかし、今のMさんは刑務所生活の中での自己分析、自己変革によって一社会人として生活できる自分になれるよう努力する日々を過ごされています。そして、それによって刑務所経験を劣等感によるマイナス思考で考えるのではなく、その経験を生かして刑務所を人間的成長の場に出来たと考えられるようになるでしょう。それにより刑務所経験を劣等感の種にするのではなく、人間的成長への切っ掛けの場に出来たというプラス思考で考えられるようになると思います。そこから来る周囲と協調しての積極的な生き方が周囲からの好感につながり、それが刑務所経験への悪い意味での「レッテル貼り」を防止し、逆に「よく立ち直り、更生しましたね」というMさんへの好感、信頼に繋がることでしょう。
 私もアルコール依存症者で、いわゆる「アル中」なのですが、この言葉だけが一人歩きすると、例えば就職活動でも非常に苦労します。面接の場で「アル中です」とだけ言うと、まず殆どの場合雇ってもらえません。しかし、キチンと治療して何年かの回復過程を歩み、その姿で面接すれば相手は「どうして、あなたがアル中なんですか?」といった目で見てくれて、合格の可能性も大きくなります。要は、「この人なら、酒の問題で職場に迷惑をかけない」と思ってもらえればアル中の就業も決して夢ではなくなるわけです。Mさんの場合も、言葉は悪いですが、いわゆる「ムショ帰り」というレッテル言葉にも負けないように、自己改革の道を歩み続けるなら、「渡る世間に鬼はいない」との格言を実感できるようになるでしょう。

 真冬の寒さが続きます。どうぞお体にはくれぐれも注意して、風邪など引かないように日々の生活を送って下さい。
 それと、末筆にて申し訳ありませんが、その後お母様の容態はいかがでしょうか?次のお手紙でお知らせ頂ければと思います。それではこれにて、私からの新年第一便とさせて頂きます。失礼します。
             草々
                                  平成26年1月14日
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2014/01/13/17:36:24 No.1159

Re:収監者とのbんつう

Bさんへの返書

B様
前略
  ご無沙汰しています。1月7日付のお手紙18日に届きました。新年のごあいさつ有り難うございます。本年もよろしくお願い致します。

  昨年は職業訓練や再犯防止教育など充実した1年を過ごされたと思います。今年もまた新たな訓練をとの意欲を持って新年を迎えられたようですが、何か興味のある事に挑戦して頂ければと思います。昔から「好きこそものの上手なれ」と言いますが、人間、好きな事、興味のある事は意欲的かつ長期的に継続する事が出来るので、その道で上達する事が出来るわけです。そんな何か新しい訓練が見つかったら、また是非お手紙でお知らせ下さい。

 以前のお手紙で、出所後の環境変化に向けての不安を述べられていましたが、今はいかがですか?その種の不安は一人で抱え込んでいると、考えても考えても解消せず、逆に不安は増大しますので、この文通で遠慮なく吐き出して頂ければと思います。
 私も、19年前に断酒を始めたばかりの頃は、酒で体は弱り仕事もできず、実家でのニート暮らしを余儀なくされ「この先、この俺はどうなってしまうのだろうか?」と不安のかたまりになっていました。その堅いかたまりを毎日毎日、コネコネ、コネコネとこねくりまわし(笑)柔らかくして不安を和らげてくれたのは、同じアルコール依存症の治療仲間の集まりである自助グループAAの仲間達でした。同じ依存症で同じような苦しみを味わって来た仲間達が日々の断酒を継続し、いわゆる「アル中」のイメージを感じさせない姿が私を勇気づけてくれました。
  Bさんの出所後を考えても、一般社会には確かに種々の誘惑、再犯への落とし穴も多いとは思いますが、依存症専門治療や同病の仲間達との触れ合いの中で培われる絆が再犯に落ち込まない命綱となりますので、それを出所後への心の支えとして、先ずは今の一日一日を大切にして、日々の刑務作業や職業訓練などを通じて、出所後の社会復帰に向けての土台作りに励んで頂きたいと思います。

真冬の寒さが続きます。何事も健康が前提となりますのでお体には重々気をつけてお過ごし下さい。次のお便りを楽しみにして今日はこれにて失礼します。

                      草々
          平成26年1月20日
          大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2014/01/19/19:46:50 No.1180