収監者との文通:Aさんとの往復書簡 H27/1/30
- 2015.01.30
- Aさん ギャンブル
<A⇒鈴木>
前略
鈴木さん、今年も新たな1年が始まりました。如何おすごしでしょうか?
私の方は、今年は簿記以外にも何か勉強を始めようと思います。まず手始めに宗教の学習をして自分を見つめ直し、今後の生活に役立てようと思います。今、「よくわかるお経読本」という文庫本を買って手元にあるので、それを何度も読み返し自分自身を高めようと思います。その後は禅にかんする本を買おうと考えています。
それと、私の刑期もあと1年5ヶ月くらいなので何か職業訓練を受けて資格を取ろうかなとも思っています。一番取りたいのは、マイクロソフトオフィススペシャリストですが、こちらにはそれが無いので難しそうです。スペシャリストはもう古いですが、オフィス2000なら持っています。その上の資格も持っています。でも今はオフィスもどんどん改良されて知らない機能もたくさんあり、新しいバージョンのオフィスも勉学はしたいです。こちらは、訓練に行けそうもないので本を買って勉強しようと思います。
こちらは取れる資格は少ないのですが、その少ない中の一つに「内装施工」というのがあり、それが気になっています。壁紙の張り替えや、床の取り付け?などが学べるそうです。訓練期間は6ヶ月で、次の4月から始まるのが私にとっての最後のチャンスです。まだ募集が来てないので考える期間はもう少しあります。これに興味を持った理由の一つには、今外では自分でリノベーションできる物件が増えていて、壁紙や床の張り替えなどの需要が多くなっているからです。それ以外には、母の知り合いが内装業をやっていて、そっちで働かないかという話もあるので興味を持ち始めたのです。
でも自分の考えている将来設計にはあまり関係の無い分野なので、どうしようかなと悩んでしまうのです。鈴木さんはどう思いますか?もし訓練に行けたら教科書などもあるので、簿記1級の勉強が少し止まりそうだし、でも懲役の時間をどうせ過ごすのなら資格が取れる方に使った方が良いのか・・・本当に悩みます(笑) 前述したように、自分の将来設計にはあんまり関係が無いので悩んでしまうのです。つまらない事を書きました。こんな感じで何か新しい事を始めようと思います。
話は変わりますが、アルコールの断酒は3年で軌道に乗れるのですか?今の私には3年という期間は夢のまた夢みたいな時間です。でも、3年間窃盗、ギャンブルをしなければ、その後もしないで生活ができそうです。3年という期間はまず私にとって大きな目標です。
私の最初の目標は3ヶ月です。これは短か過ぎると思われるかも知れませんが、私が出所して最初に窃盗をしてしまう時期が概ね3ヶ月後だからです。先ずは3ヶ月をクリアし更にまた3ヶ月と犯罪をしない時期を積み重ね、一日一日を無事に過ごして行く事が一番大切だと思うのです。なので、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、3年と一つずつ目標をクリアして行き、自信をつけ、ていこうと思います。前から使っている「根拠のない自信」で自分は絶対大丈夫と思い、過ごして行きます。
窃盗をしてしまう理由というのは、今まではバカラをやりたいからというのが大きな理由でしたが、前回出所してからはバカラは一切せず、仕事もきちんとしていたのに、日々の生活に焦りが生じ、次の給料日までお金がもつにも拘わらず、足りるのかという不安が大きくなり、それが切っ掛けで窃盗をしてしまいました。こういう不安を取り除くのに、宗教、仏教が役に立つかなと思い、仏教の本を読んでみようとおもい買ったのです。」
元々、仏教には縁があり、私が小さい時祖母と一緒に勤行をしていました。宗教は日蓮正宗なので本当は法華経の本を買いたかったのですが、中々良い本が見つからなかったので仏教全般の本を買ってみたのです。これにも法華経について少しですが書いてあるので学ぶ事ができます。
禅の本も何冊か読んでみたいのがあり、次回に機会があれば買ってみようと思います。買おうと思っているのは「心がスーっと貼れる一日禅語」、「菜根譚」に関する本です。これで心の不安を和らげる事ができればと思います。禅の本には実生活に役立つ言葉がたくさん載っているので買って読んでみたいのです。少しずつですが自分自身を高めて行ければと思います。
さて、将棋大会ですが残念ながら2回戦で3-0で負けてしまいました。相手のほうが一枚も二枚も上手でした。悔しいですが仕方ないです。次の卓球、ソフトボール大会で頑張ります。
今回はこの辺で失礼します。まだまだ寒い日が続きます。お体を御自愛下さい。手紙はまた書きます。失礼します。
草々
平成27年1月23日 A
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<鈴木⇒A>
A様
Aさん、こんにちは。新しい年が明けました。本年も宜しくお願いいたします。
お手紙、28日に届きました。残りの刑期が段々短くなる中で色々と夢を広げているようですね。宗教・仏教に目を向け勉強してみたいとの事ですが、色々と夢が広がっているようなのでちょっと整理してみましょう。
①:簿記1級⇒公認会計士
②:宗教・仏教(お経)の勉強
③:職業訓練ーマイクロソフト/オフイススペシャリスト(独学)
④:職業訓練ー内装施工
ですね。この中で最大の難関はやはり①だと思います。司法試験や医師国家試験と並ぶ三大国家試験の一角を占め、合格水準に達するには簿記1級を基礎学力として、合格の為の効率的な勉強を毎日何時間も続けて年単位の時間がかかるとも言われています。場合によっては、受験勉強期間中は仕事を止めるか、休むかしてでも勉強に集中する必要があるとさえ言われています。
因みに、合格者数の多い大学は国公立大学では東京大学、一橋大学、京都大学、神戸大学などで、 私立大学では慶應大学、早稲田大学、中央大学、明治大学、同志社大学などで、特に、慶應義塾大学がこの40年来合格者数第1位を堅持しています。東大が1位にならないのは元々の学生数の母数が少なく、当然本試験の受験者母数が少ないからでしょう。 もちろん、大学名で合否が決まるわけではなく本人の努力、効率的な勉強法次第でその他の大学や、或いは高校卒でも十分合格が可能(高卒合格率・10%)なのですが、いずれにせよ上記大学の学生、卒業生の合格者に負けない努力と実力が必要なわけです。
しかし、公認会計士試験がどんなに難関であろうと、Aさんには合格を目指しての努力を、勉強を続けて欲しいと思っています。それは、合格がAさんの人生を大きく切り拓くからであるのは勿論ですが、同時に各種の依存症と闘う他の仲間達を大きく励ますからです。前回の手紙(12/18付)でも書きましたが、この文通でも、資格の取得を目指したいと言う方々に公認会計士を目指すAさんの努力を紹介しています。そしたら、ある文通者から「Aさんの話を読んで、自分もIT関連の『システムアーキテクト』の国家資格を目指そうと決意しました」という返事をもらいました。公認会計士を目指しての簿記2級合格段階で既にAさんの努力が仲間を大きく励ましていますので是非今の努力、勉強を続けて欲しいと思います。
以上を前提とした上で③、④が何処まで可能なのか?を考えて頂ければと思います。もちろん、より確実度の高い③又は④で将来の生活設計をしたいというのであれば、そちらを優先すれば良いと思います。昔から「二兎を追う者は一兎も得ず」という諺がありますが、最悪の共倒れにならないようにして頂ければと思います。
次に、アルコールの断酒の場合軌道に乗るまで3年かかるという話ですが、それはアルコール依存症者が専門治療や自助グループに参加して断酒生活を身につけそれを習慣化するまで概ね3年かかるという意味です。そこまで行けば、80%の人がその後も断酒を継続できるという事を統計数字が示しています。但し、その3年までに逆に80%の人がUターンしてしまうという冷たく悲しい現実もあるわけです。
では、20%の3年到達組に入るにはどうしたら良いのでしょうか? お手紙で、断窃盗・断ギャンブルに向けて3年を大きな目標として、先ずは最初の3ヶ月に挑戦したいとの事で、その意気ごみは素晴らしいと思います。ぜひその目標を達成して下さい。そしてその為に大事な事はやはりお手紙にあるように「一日一日を無事に過ごして行く事」だと思います。上記の3年到達組の人達の殆どは「今日一日の断酒」を日々の目標として一日ずつの断酒を積み重ねて3年に到達しています。「飲みたい!」と思ったら、「今日は止めておこう、明日にしよう」との思いで時をやり過ごすわけです。大石で自分の盗癖と闘っているある患者さんは「万引きはいつでも出来るから今慌ててやることはない」といつもそう思って毎日を暮しているそうです。「この2年間そう思ってきたから、結局この2年間万引きせずに警察にも捕まることもなく過ごす事が出来ましたとその患者さんは嬉しそうに話しています。結局はそれが断○○を継続するコツのようです。人間の欲求と言うのは抑えれば抑える程逆に強くなるという特性があります。ですから、それをやんわりと受け止めて受け流してしまう方が良いみたいです。「酒?飲んでも良いよ、でも明日にしよう」、「バカラ?行っても良いよ、でも明日にしよう」といった具合にです。そして更に「バカラは明日にして、今日は○○をしよう」と考えてバカラ欲求を受け流してしまえば良いわけです。Aさんも趣味が広いようなので○○は沢山あると思います。バカラを明日にしたのは良いけれど、その後何もせずにいるとその空白の退屈な時間に又バカラ欲求が舞い戻って来る危険があるので空白の時間を作らない事が大事だと言えるでしょう。
真冬の寒さが続いています。悪い風邪などひかないよう、くれぐれも注意して下さい。それでは今日はこれにて失礼します。
草々
平成27年1月30日
大石クリニック相談員 鈴木達也
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