無題

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無題

Oさんからの手紙

大石クリニックHPトップページ参照

前略
 10月8日付のお手紙、11日に届きました。本当にありがとうございます。毎回送られて来る手紙の私を勇気づけてくれる内容に感謝しております。私自身病気と自覚してからは、少しずつですが考え方を変える事ができるようになりました。
 以前は、止めたくても止める事の出来ない悪い癖だと思い続けて半ばあきらめていました。この文通で過去を思い出しながら手紙を書いていると「なぜ、あの時我慢出来なかったのか?」、なぜ、あの時あんな事をしてしまったのか?」など色々考えてしまいますが、依存症という病気が原因だと私自身理解できました。今回の懲役は正に私のターニングポイントとなりました。
 10月に入ってから暑い日や寒い日など、次々に変わって、体調調整が難しい時期に入りましたが、私には少しだけ良い事がありました。私の妻が面会に来てくれました。それはある意味で私の病気を理解してくれた事です。本当に過去の懲役の間待っていてくれましたが、今回こそもう駄目だと思っていましたが、この文通を始めた事や、こんな病気が有る事、多くの人たちが苦しんでいる事等々を毎月手紙に書き続けました。
 今回の面会で私の依存症への理解があり、身元引受人にもなってくれました。ただ問題は、今回私がやってしまった罪名を知りません。一日も早くそれを話せるようになりたいです。私自身も文章では書く事が出来ますがまだ言葉に出して聞いてもらうだけの勇気がありません。この時間を使って勇気をつけて行きます。
 今回の手紙では鈴木さん自身の事を書いて頂き、かなりの親近感を覚えました。刑務所に入所しての新入時教育で酒害教育をしていますが、外からわざわざ講師の先生に来所して頂き話を聴くのですが、鈴木先生が手紙に書かれていました「隠れ酒」の話もしていました。
 私の家では事情があって公に酒が飲めません。その為仕事の帰りに家の近くの公園でビールを飲んで帰るのも「隠れ酒」ですかね。仕事中に飲酒する人は別としても毎日飲酒する人は多々いると思います。私もそうでしたが、仕事中は飲酒する事は無いのですが、毎日仕事帰りに「隠れ酒」?をしている私もアルコール依存症の仲間ですね。
 講師の先生は、50歳を過ぎてからアルコール依存症で入院して、その後、断酒会に入会して80歳を過ぎてもスリップする事なく来れたようですが、私は時々夢の中でスリップしています。夢の中なら良いのですが、出所後社会に帰ってからのスリップした時の事を考えると本当に怖さを感じます。今までは病気と気づいていなかったのでスリップなのかどうか分かりませんが、止めようと努力して止められなかった結果今回の4回目の懲役になってしまいました。その為本当にスリップが恐いんです。そんな事を毎日考えながら生活していますが、出所後は同じ悩みを持つ同病者(仲間達)とスリップしない為の努力をして行きたいですね。

=テーマ:「仲間との絆」=

 今回、このテーマを選んだ理由ですが、今の私の周りには同じ病気の人はいません。もしかしたら、いるのかもしれませんが、解りません。正直、こんな病気は恥ずかしくて誰にも話せません。多分他の人たちも同じではないでしょうか?私がこの病気になってから今迄の間に病気について話せたのは今回の懲役の分類の為に○○刑務所で一緒になった人達だけです。警察の取り調べの時だって病気の話ができる分けではないし、事件の内容だけで終わってしまいます。取り調べで話した事は「なぜ、そんな事をしたのか?」、「なぜ、そんな気持ちになったのか?」、自分が一番知りたい事だけど、何かしら言葉を見つけて話しました。
 罪状が違っても同じ病気で分類の為に○○刑務所に来ていた人達と話していたら本当に楽になりました。性依存症について知っている人が一人いて、その人が色々と話を聴いてくれました。それこそ大石クリニックの事もです。
 多分、私たちのような犯罪を繰り返している人の多くは「私はそんな病気ではない」と思っていると思います。分類で出会った私を含めての3人は、時期は違うと思いますが大石クリニックに行く人達です。罪名も違うし、刑期も違う。でも出所後は「刑務所に帰って来ない為にも、皆しっかり治そう」との思いです。多分、2度と会う事の無い人達、名前も忘れてしまいましたが、思う事は同じだと思います。
 この病気になってしまい、この病気ならではの辛さ、それはこの病気になった人でないと解らない事です。前にも書きましたが、警察は犯罪に対する罰は与えるけれど、それを止めさせる方法は持っていません。他人事です。
 短い時間(期間)でしたが、あの人達との時間は本当に大切な時間になりました。私が本格的に大石クリニックのプログラムを受けるようになって、もし私がスリップして新聞に載ってしまい、あの二人が気づいたら、やっぱり哀しいでしょう。私も同じです。二度と会わないけれど、「病気を治す為には」との思いでの3人の絆、しっかり繋いで行きたいと思います。二人とも大石クリニックの住所を知っているようなので、もしかしたら私と同じく文通に参加しているかもしれません。
 仲間との絆は本当に大事だと思いますが、本当に大事な事は、自分自身の思いだと思います。いくら周りで「絶対に頑張ろう」と言ってみても当の本人が「どうでも良い」と思っていたら何にもなりません。鈴木先生が以前に書いてくれたように、
=「君は自分一人の力だけでは再犯を防止する事ができない。しかし、君は自分自身で再犯を防止しなければならない」=
ですね。仲間との絆が有るからこそ、自分自身で再犯を防止する事が出来るのだと思いました。今の私は一人ですが、以前に知り合った人達が私の心の中に残っていて、決して負けない思いでいます。正直、闘う前からスリップの事を考えていたら、この先大変ですね。
 私のような「仲間との絆」、アルコール依存症の人達も同じなんでしょうか?私だけ変な考え方をしているように思えてなりません。それと私のように悩んで辛い思いをしている人は全国に何人くらいいるのでしょうか?この事は以前から知りたかった事です。正直少なくないと思っています。私が犯罪を犯している隣に同じ事をしてる人がいて、そんな事が1回、2回でなく数回ありました。そんな人から警察に通報された事も有りました。そんな人達も1日も早く気づいてこの辛さや苦しみから抜け出して欲しいと思います。私自身も以前に会った人達と同じ辛さを共有し合って、会う事の無い仲間ですが、その時の絆を大切にして行きたいと思っています。
 何か取り留めのない話になってしまいましたが、月も変わって11月になり、だんだん寒さも厳しくなってきました。これから横浜も寒くなると思いますが、鈴木先生をはじめ大石クリニックスタッフの皆さん、お体に気をつけて頑張って下さい。誤字・脱字、乱筆・乱文お許し下さい、今月会わせて今年も2ヶ月、頑張って行きます。
                     草々
                           鈴木達也先生
            平成25年11月7日出し O  

Date: 2013/11/12/12:04:00 No.1052

Re:無題

Oさんへの返書

O様
前略 
 11月もそろそろ半ば、秋の涼しさから冬の寒さに向かう今日この頃ですが、変わりなくお過ごしでしょうか? 
 さて、11月7日付のお手紙9日に届き、ご自身の病気を深く理解されている文面を感銘深く読ませて頂きました。特に、AA基本原理の性依存症版を正しく理解されており本当に嬉しく思いました。

 又、奥様が面会に来て下さったとの事、良かったですね。さぞかし嬉しく思われたことでしょう。これもOさんが自分の病気と正面から向き合い、それに正しく対応されようとしている姿が、毎月の手紙で奥様に伝わったからでしょう。これを第一歩として、奥様共々依存症の何たるかを正しく理解して、共にに治療の道を歩んで頂ければと思います。
  
 Oさんも、「隠れ酒」?をしているとの事で、自分もアルコール依存症者の仲間か?とのことですが、家庭の事情による禁酒から来る「隠れ酒」との事なので、アル中の「隠れ酒」とはちょっと性質が違うように思います。言ってみれば、家庭内の「法律」で飲酒が禁じられているようなものですよね。ですから例えば、飲酒が禁じられているイスラム教の国の人が国から罰せられないように隠れて酒を飲むようなもので、常軌を逸した病的な飲み方でなければ、「隠れ酒」であっても依存症の域には達していないと思います。但し、全国にに220万人の患者がいると言われているアルコール依存症なので注意は必要です。安全圏は、
◎:週2回程度の休肝日 
◎:酒に強くなっても飲酒量を増やさず適量を維持する
◎:飲酒の節度を守る
等々ですね。これらが守れなくなって来ると、その原因としての依存症が疑われ、黄色~赤信号が待っていますので要注意となります。
 
 次に、スリップの夢についてですが、これについては確かに「不安だ」という声をよく耳にするのですが、二通りの考え方ができるようです。つまり、①は:依存症者の断酒や断薬、再犯防止などが安定的に継続している中で見るスリップの夢の場合には、むしろ喜ばしい事で不安に思う必要はないそうです。つまり、昼間の起きている間、病気への自覚と理性が効いているので、その反動として夜の睡眠中にスリップの夢を見るという心理学だそうで、この場合のスリップの夢は治療が進んでいる証拠と考えられ、良い意味での自信を持って良いそうです。②は:夢ではなく現実にスリップを繰り返している中で睡眠中にもスリップの夢を見るケースで、これにはもちろん①の心理学は当て嵌まりません。従って、スリップの夢を見た場合にはそれが①か②かのどちらのケースによる夢なのかによって夢に対する考え方が変わってくるわけで、今後のスリップ夢に備えて頭に留めておいて頂ければと思います。

 さて、今回のお手紙のテーマは「仲間の絆」でした。文面の中で、分類の為に入った○○刑務所で巡り会った2人の同病の仲間との心の絆について書かれていますが、本当に良い仲間と出会う事ができましたね。2人とは、それまで誰にも話せなかった病気の話、犯した罪の話を腹を割って話し、又、聞く事ができ、それによって気持ちが本当に楽になったそうで、それは、同病の仲間との触れあいや共感、絆がいかに大事かを実体験できた事を意味しており、本当に貴重な体験だったと思います。
それと、お手紙の中で私が凄く感銘を覚えた一節がありましたので、Oさんの手紙からそのまま引用します。
『私が本格的に大石クリニックのプログラムを受けるようになって、もし私がスリップして新聞に載ってしまい、あの二人が気づいたら、やっぱり哀しいでしょう。私も同じです』
との一節です。「仲間を哀しませることをしたくない! 」との思いこそ、治療仲間との絆による思いと言って過言ではないし、その思いがあるからこそスリップを防止することが出来るわけです

 あと、お手紙で『私のように悩んで辛い思いをしている人は全国に何人くらいいるのでしょうか?この事は以前から知りたかった事です。正直少なくないと思っています』と質問されていますが、確かにOさんの感覚通りで、私も性依存症の人の数は少なくないと思います。ある心理学者の推計によれば、その数は、総人口の3~5%だそうです。中間の4%としても日本には500万近くの性依存症者がいる計算になりますね。そして、その治療に応じられる医療機関は、以前の手紙にも書いたように全国にたったの2ヶ所しかないわけで、私もちょっと暗澹とした気持ちにならざるを得ないのですが、しかし、逆に言えば、治療患者、医療機関の双方に性依存症治療を進める魁(さきがけ)と言うか、開拓者と言うか、そんなやりがいみたいなものも感じています。

 最後に、「仲間との絆」についての私の体験談も書きたかったのですが、それを書き始めると長くなるので、次回への「乞御期待」とさせて頂きます。
 
 それでは、寒さに向かう折り、悪い風邪など引かないようお身体をご自愛ください。つぎのお便りを楽しみに今日はこれにて失礼します。
          草々 
平成25年11月13日
     大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/11/12/13:03:32 No.1053