収監者との文通 Eさんからの手紙
収監者との文通
Eさんからの手紙
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大石クリニック相談員 鈴木達也様
前略
お手紙ありがとうございました。特に人との繋がり、良い人間関係を作ることが重要で、皆で支え合って依存症と向き合い治して行こうという力が必要なのが分かりました。 私もこのような仲間に出会える日を楽しみにしています。
今回は、前回の手紙で触れていた計画についてもう少し詳しく書きたいと思います。前回の手紙以降、借りた2001年版の本で調べたのですが、私に受験資格があり計画を立てるとなると、「平成3年3月31日までに満18歳に達し、児童福祉施設で3年以上児童の保護に従事していた者」が一番近いのかなと考えました。これを計画の土台にしてシュミレーションしてみたいと思います。
出所を迎えたらハローワークで児童福祉施設のアルバイトを探し条件の良い所を見つけ面接を受け雇っていただく(この時、刑務所に居た事を正直に言った方が良いのでしょうか?)そこでアルバイトをしながら資格取得の勉強を行う。その一方で保育実習で必要な「音楽」、「絵画制作」、「言語」、「一般保育」の練習をする。(実習はこの中から3つ選ばれ、受験者がその3つから2つ選び受験するみたいです) 科目は8つありそれぞれ多岐にわたり、大丈夫かなと不安になってしまいました。でも、保育資格は8科目と実習を一発合格しなければいけないというものではなく、3年以内に全科目合格できれば取得できるので、まず一発合格を狙い、受からなかった科目は翌年に再挑戦して合格できるように頑張りたいと思います。今回借りた本は問題集等ではなく、保育士になる為のHOW TO本だったので私の思っていた本とは違いましたが、参考になったので借りて良かったと思っています。
Ⅰ期、Ⅱ期と分けるなら、Ⅰ期:「バイトをしながら資格の勉強を開始」 Ⅱ期:「学んだ事を発揮して目指せ一発合格」 Ⅲ期:「取りこぼした科目を更に勉強&年度に合った情報(時事問題・法改正・統計数値等)をフォローしながら合格へ」となると思います。更に細かく分けるなら「目指せ就職」、「仕事場と子供達にうちとける(受け入れられる)」等、高いハードルばかりですが、一歩一歩前へ進んで行きたいと思います。
実は今悩んでいます。それは工場の雰囲気が悪くなっている感じがするからです。以前は当り前の事、些細な事で注意されることは無かったのですが、最近は注意される人が多く、だらけ過ぎと思えてなりせん。暑くなってきたから仕方ないと思いがちですが、それだけではないと私は思っています。先生達はあまり言いませんが、早く皆に気づいて欲しいと思います。今ここで手を打たないとますます雰囲気が悪くなり、自分で首を締めてしまう結果になりつつあります。皆の気を引き締める方法等何か良い方法等何か良い知恵があれば教えて頂きたいと思っています。何卒よろしくお願い致します。最近、送って頂いたワークブックに興味を持ってくれた人がいましたので大変嬉しく思っております。
梅雨らしくない梅雨もおわり本格的な夏となちました。連日暑苦しい日々が続きますが、水分をしっかり補給し、夏バテしないよう栄養をとって、体調を崩すことのないようお過ごし下さい。またのお手紙楽しみにしております。
草々
7 月7日 E
Date: 2013/07/21/22:08:02 No.952
Re:収監者との文通
Eさんへの返書
E様
前略
7月7日付のお手紙拝読しました。保育士を目指す人生設計を読ませて頂き、種々の困難、ハードルがあっても負けることなくこの道を歩み続けて欲しいと願わずにはいられませんでした。何事も最初は困難そうに見えるものですが、でも目標への意欲を持って一歩ずつ前に進み始めれば道は拓けるものです。最初に「保育士資格試験=筆記試験8科目+実習2科目選択」とだけ聞くと「大変だー!! 」と思えるかも知れませんが、1年、2年・・の計画を立てて、その目標に向けての1日1日のテンポを崩さずに歩みを続けるなら、最初の不安は勇気へと、そして希望、自信へと変わり行くことでしょう。保育士資格の勉強は又、以前の手紙でも触れた「いかりの綱」(ワークブック/セッション5:P33~37)としての役割も果たすことでしょう。つまり、資格の勉強が心を再犯の方向へ漂流させない力となるわけです。
尚、ご存知かも知れませんが、保育士資格をとっても、出所後2年間は各都道府県への保育士登録はできません。登録ができないと、たとえ資格は持っていても保育士としての実際の仕事には就けません。でもそれをプラス思考で考えて、仕事に就くまでの時間的余裕と考えれば、焦りやストレスの防止になると思います。ただ、再犯に走ったら「2年」も「登録」も消し飛んでしまい、もう一度刑務所での罪の償いからやり直さなければならなくなりますので。まずは保育士への目標・希望を片時も忘れないようにして、それも再犯防止の力に出来れば良いですね。
それと、就職の面接の際に刑務所に入った事を正直に言うべきか否か?とのご相談ですが、先ずは依存症治療による再犯防止を自身に誓いそれを実行する事を大前提とした上で、受刑体験はプライベートな問題として心の中に秘匿して良いと思います。つまり、2度と過ちを犯さない限り、刑事事件で他人に迷惑をかける事は無いわけで、周囲もEさんの過去の過ちを知る必要は無いわけですから、面接の場で敢えてEさん側から過去の話をする必要も無いと思うのです。
私の立場で考えると、「アルコール依存症」、つまり「アル中」という言葉にも独特な語感の悪さがあり、実際問題として就活でも足枷になるケースが多いです。それで私も大石の前の会社に入った時の面接では、断酒継続を改めて自分自身に誓った上で、面接では自分の病気を伏せました。そして先ずは入社後の3ヶ月間、無遅刻・無欠勤で仕事も普通に行いました。当り前の事とは言え、「飲んでいるアル中には出来ない仕事を」と自分自身に言い聞かせつつの3ヶ月でした。そしてほぼ3ヶ月が過ぎた頃、仕事帰りの私鉄の駅に向かう道で同僚から「たまには、駅前の店で一杯やっていかないか」と誘われました。私は、やはり来たかと思いつつ、その場で自分の病気を打ち明けて、「アルコールだけは」と丁重に断りました。以後、どうなったかと言えば、何も変化はありませんでした。一度一人に打ち明けてしまうと気が楽になって、他の同僚はもちろん、上司にも病気を打ち明けましたが、それで後指をさされたり、仕事上での不利益を受けるような事は全くもってありませんでした。周囲の誰一人に対しても飲酒による迷惑をかけた事が無かったので、周囲も「私はアル中です」と言われても文句をつけるネタが何一つ無かったわけですね。ただ、面接の最初の段階でそれを言ってしまうと相手も不安になり、結局不採用になる確率が高くなるのかなと思います。
保育士の勉強と並行して大変かとも思いますが、ワークブックの学習も依存症の治療という意味でEさんの全生活の土台となりますので、一日一日少しずつでも進めて頂ければと思います。お手紙で「ワークブックに興味を持ってくれる人がいて大変嬉しく思いました」と書かれていますが、そんな仲間も大事にして一緒に勉強できれば良いですね。
工場の雰囲気が悪くなっていることに悩んでいるとの事ですが、そういう問題を皆で話し合える場とか機会というのはありませんか?或いは、そういう相談ができる担当の先生とか、同じ思いを抱いている個々の仲間はいませんか?具体的な状況が分からないので月並みなお答えしか出来ませんが、先ずは可能な事から始めて行けば次の方法が見えてくるのではないかな?と思います。
この先も猛暑の夏が続くと思いますので、熱中症、夏バテなどに注意してお体をくれぐれもご自愛下さい。又のお便りを楽しみにしながら今日はこれで失礼します。
草々
平成25年7月22日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/07/21/22:39:29 No.953
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