Aさんからの手紙
Aさんからの手紙
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及び 当掲示板No.555 以降Aさんとの文通参照
前略
鈴木達也先生、如何お過ごしでしょうか。院長先生もお元気でしょうか。
恥ずかしい話ですが、また逮捕されてしまいました。バカラ賭博の方は全くやっていないのですが、どうも窃盗が止められず、又やってしまった次第です。
でも仕事はきちんとしていたし、昔みたいにお金に困ることはありませんでした。なのに、また同じ犯罪を犯してしまう・・・。今回、刑事さんにも「何でやったの」と言われ、自分でも本当に何でやったんだろう?という思いです。
でも、やった事は確かなので、今度の刑では、それを自問自答しようと思います。
前回(前刑)での手紙のやり取りのお蔭で、バカラに行きたいと言う気持ちを今回持つことはなかったです。
それと同じ想いを持てるよう、今回の刑務所では自分を鍛えて来ようと思います。
まずは、横浜にも行けず、この様な事になってしまい、本当に申し訳ないです。鈴木先生や院長先生の期待に応えられず、本当にすいません。
取り急ぎ、現状だけを報告させて頂きます。また書きたいと思います。では失礼します。
草々
平成24年5月15日(火) A
↓返書
Date: 2012/05/27/17:26:49 No.747
Re:収監者との文通
Aさんへの返書
A様
前略
ごぶさたしています。お手紙を拝読して、二歩前進の為の一歩後退を感じています。依存症からの回復の道を歩む殆どの人がそういう歩み方をしています。一歩後退への反省から二歩前進の為の方法を学び、それを実践して前に進むというのが回復の殆どのパターンと言って良いでしょう。
お手紙の中で、「仕事もきちんとしていたし、昔みたいにお金に困る事はありませんでした。なのに、また同じ犯罪を犯してしまう。・・・本当に自分でも何でやったんだろう?という想いです」と書かれていますが、そこにこの病気が持つ本質と根深さを感じています。
依存症という病気が患者だけの意志力では逆らい切れない欲求を呼びます。盗癖も依存症の一種ですが、Aさんの場合、潜在的なバカラ欲求が形を変えて窃盗への病的欲求に繋がったのかな?と思います。それは病気の過程での出来事なので、本人も気づかないままに無意識の内に自動的に進行し、結果として、何故やってしまったのか?、自分でも分からないという事態に至るわけです。それは、あくまでも病気の為せる業なので、恥辱感を抱くことなく盗癖の治療をして頂ければと思います。
今、その効能が認められ、世界的な広がりを見せている「認知行動療法」の中で「自動思考」という言葉が使われています。例えば、断酒中のアルコール依存症者が偶然の機会に一杯飲み屋の前を通りかかります。そのカンバンが目に入った途端に昔飲んだ酒の味、酔い心地の記憶が甦り、その瞬間にもう飲めない自分を忘れて、気がついたらハシゴ酒をしていたという例も珍しくありません。酒の味や酔いへの自動思考が自動的に病的飲酒欲求を呼び醒ましたわけで、そこに、「自分はもう飲めないと自覚していた筈なのにどうして?」との疑問への答えがあるわけですね。自動思考が自覚を瞬間的に眠らせ、その瞬間が命取りとなるわけです。
では、「その自動思考を防止するには?」と言えば、これは病気の症状なので、やはり専門治療やミーテイングへの参加が不可欠だと言って良いでしょう。でも出所まではそれが出来ないので、当面は以前の様に文通をしたいですね。今回の一歩後退を無駄にせず、二歩、否、三歩、四歩・・・の前進につなげる為にもこの文通を続けて頂ければと思います。陸上競技の走り幅跳びでは、ジャンプの為に一旦後方に下がりますよね。それでジャンプ力をつける為の助走が可能になるわけです。現在から出所までの期間を次の新しい人生への助走期間と位置づけて文通して頂ければと思います。
それと、文通の「あおいくまの部屋」への公開も、社会と自分に改めて更生への約束をする上で大きな意義があると思いますので、Aさんに異存がなければ続けさせて頂きたいと思います。
Aさんの名前でのWEB検索に関する件ですが、当方のPCではサイトを削除できないため、大石で契約しているHP業者に依頼して削除して貰いましたのでその旨ご了解下さい。
春から初夏へと季節は移り行き、蒸し暑くなって来ますのでお身体には重々気をつけてお過ごし下さい。またのお便りをお待ちしながら今日はこの辺で失礼します。
草々
平成24年5月19日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2012/05/27/17:37:58 No.748
Re:収監者との文通
Yさんからの手紙を送ります
A様
前略
こんにちは。大石クリニックの鈴木です。
先日の手紙を投函した直後に、以前にもAさんとの手紙の交流があったYさんから手紙を託されましたので、原文のままワードにしてお送りします。以前にもお話したかと思いますが、Yさんはアルコール関連の犯罪で過去に3度の受刑体験をされましたが、その後アルコール依存症の専門治療に繋がり回復の道を歩み、今日では、依存症の回復と刑務所の卒業が決して夢ではない事を身をもって示している方です。そういうYさんの一文を是非ご一読下さい。
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拝啓
A様、こんにちは。
大石クリニックに18年お世話になっているYです。ご無沙汰しております。お手紙によりますと、お元気そうで安堵しました。A様の事は鈴木達也さんから何度かお聞きしております。お手紙を拝見させて頂いた事もあります。
何を隠しましょう、私も脛に傷を持つ人間です。お手紙によれば逮捕されたとの事ですが、悲観する事はありません。まだ前途ある年齢かと思います。
私、現在68歳になりますが、30歳の時に、ブルーバードで酩酊運転していた時に車の窓から右腕を出しており、対向車の大型トラックと衝突して右腕を失いました。事故を起こした時には既にアルコール依存症だったかも知れません。それからというものは自棄酒に走り、もう完全にアルコール依存症でした。アルコール依存症は完治はしませんが、症状の80%は回復し、普通の人に近くなります。
A様の場合は賭け事が原因のようですが、賭け事、薬物、盗癖などは年齢と共に回復し治って行きます。今回の事件も魔がさしての事だと思います。私にもそういう事がありました。
院長、副院長、鈴木達也さんも、A様が嘘をついたとか、裏切ったなどとは決して思っていないと思います。万が一刑務所に入っても悲観しないで、償いを全うして一日も早い仮出所を目指して精進して下さい。
院長、副院長先生、スタッフ一同、一日千秋の思いでA様の出所を待っていてくれると思います。院長、副院長先生も厳しい事を言う時もあるかも知れませんが、真面目にやっていれば面倒見の良い先生方で、優しい面もあります。出所した暁には、寄り道・わき見をしないで、直行で大石クリニックをターゲットにしてご来院下さい。事故・懲罰などの無い事を陰ながらお祈り申し上げます。
敬具
平成24年5月23日 Y
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以上がYさんからの手紙ですが、いかがでしたでしょうか? 文面にもあるように、Yさんは38年前の事故で右腕を失い、その後、刑務所生活も重ねました。しかし、いま私の前にいるYさんに過去の暗いイメージは微塵もありません。失った片腕を知恵で補い、掃除、洗濯、調理などの日常生活をきちんとこなしながら、絶縁状態にあった兄弟との絆も取り戻しています。そして、そういう姿が、回復を模索して来院する大石の新しい患者さん達に、新しい生き方への希望の道を指し示しています。
Yさんは文面で、「お手紙によれば逮捕されたとの事ですが、悲観する事はありません」と書いていますが、それは自分の半生からの確信を述べているのだと思います。Aさんも同様の確信を持てる人生を築かれるよう、私も微力ながら応援を続けさせて頂ければ嬉しく思います。
季節は、初夏から梅雨へと向かいます。だんだん蒸し暑くなって来ると思いますが、お体には重々気をつけてお過ごし下さい。
草々
平成24年5月23日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2012/05/27/17:46:06 No.749
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